研究課題/領域番号 |
16K07147
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
荒川 憲昭 国立医薬品食品衛生研究所, 医薬安全科学部, 主任研究官 (60398394)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TFPI2 / 卵巣癌 / 卵巣明細胞癌 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
TFPI2は卵巣明細胞癌(OCCC)の血液診断への有用性が期待されるバイオマーカー候補タンパク質の一つである。TFPI2は、元来、胎盤特異的に発現するKunitz型プロテアーゼインヒビターとして知られていたタンパク質であり、妊娠月齢が進むに伴って血液中で上昇する。そのため、TFPI2の血液検査はOCCC患者と妊婦を区別することは出来ない。本研究では、胎盤由来TFPI2とOCCC由来TFPI2の分子性状に差異があるかどうかを明らかにすることを目的としている。
本年度は、培養したヒト胎盤絨毛栄養膜(HVT)細胞と4種のOCCC由来細胞株におけるTFPI2の結合糖鎖を質量分析法により比較解析した。ヒト胎盤絨毛栄養膜(HVT)細胞とOCCC細胞を培養し、ECMに結合しているTFPI2を遊離させるためのヘパリン処理の最適な濃度と時間を検討した。次に、ヘパリン処理により得られたTFPI2を免疫沈降-ウエスタンブロットにより解析したところ、いずれの細胞においても、分子量の異なるトリプレットバンドとして検出され、胎盤とOCCCの間に明瞭な違いは見られなかった。そこでこれらのバンドを抽出し、質量分析計で解析した結果、トリプレットバンドはそれぞれ、Asn116およびAsn170の二か所に糖鎖が結合した修飾体、いずれか一方の糖鎖修飾体、そして糖鎖未修飾体であることがわかった。さらに、糖鎖修飾ペプチドのフラグメントイオンスペクトル上において、LacdiNAc基(GalNAc-GlcNAc)の質量に一致するm/z 407.17のシグナルがOCCC細胞株のTFPI2に共通して検出されるが、HVT細胞由来のTFPI2には見られなかった。OCCC由来TFPI2は胎盤由来のものとは異なり、LacdiNAc基を有する糖鎖構造を持つ可能性があり、現在詳細な解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、OCCC型および胎盤型のTFPI2を培養細胞から効率的に回収する方法を確立し、胎盤およびOCCC由来のTFPI2の糖鎖修飾状態を明らかにした。詳細なデータ解析が必要ではあるが、OCCC由来のTFPI2は胎盤とは異なる糖鎖構造を有しており、これは妊婦とOCCC患者の血中を循環するTFPI2の性状は大きく異なる可能性を示唆する結果である。今回得られた知見は、バイオマーカーとしてのTFPI2の診断特異性の改善に繋がる可能性があるため、特許出願を行った。当初の予定通り、順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
質量分析により得られたデータの解析をさらに進めることで、TFPI2の糖鎖構造多様性とその発現パターンを明らかにし、OCCCと胎盤のTFPI2の糖鎖プロファイルの相違点を明らかにする。また糖転移酵素の発現解析を行い、胎盤とOCCCのTFPI2の結合糖鎖の差異の原因を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験手法の改良、最適化を行ったことにより、当初予定していた規模よりもスモールスケールで安定した分析が可能になった。また、予定していた検体の購入、国際学会の出席を次年度に変更したことも加わり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに必要になった糖転移酵素の発現解析のための試薬類の購入費用、昨年度得られた結果の検証に必要となるヒト検体の購入費用、そして、国際学会に出席するための旅費として使用計画を立てている。
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