研究課題/領域番号 |
16K07158
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
伊勢 知子 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 創薬デザイン研究センター, プロジェクト研究員 (20771900)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | B細胞受容体 / リン酸化酵素阻害剤 / 部位特異的抗リン酸化抗体 / 薬剤感受性 |
研究実績の概要 |
B 細胞悪性腫瘍の治療のために、イブルチニブなど様々なB細胞受容体シグナル伝達に関与するリン酸化酵素群の阻害剤が開発されている。しかし、その治療効果は、標的リン酸化酵素の発現やリン酸化状態とは必ずしも相関せず、適切な治療薬選択法は確立されていない。本研究では、我々が初めて作製に成功したB細胞受容体CD79BのY196配列特異的抗リン酸化モノクローナル抗体を用い、Y196のB細胞シグナル伝達における役割とイブルチニブ感受性相関のメカニズムを解析する。 平成28年度の研究実施計画の主眼は、精製抗体の調整と蛍光標識の他、免疫組織染色と多色フローサイトメトリーの染色の条件の至適化、リン酸化酵素阻害剤に対する感受性試験などの材料と方法の確立であった。 実際には、B細胞受容体複合体の6つのチロシン残基のうち、CD79AのY188残基、および、CD79B のY196残基のリン酸化を特異的に検出する抗体を産生する細胞の大量培養を行い、これらの抗体の大量精製と蛍光標識に成功した。これらの抗体を用いたフローサイトメトリーでは、B細胞受容体シグナル伝達研究に用いられる様々なB細胞株によって、B細胞受容体刺激後のこれらのチロシン残基のリン酸化のパターンが異なることを初めて見出した。今後、これらのB細胞株について、イブルチニブを含む様々なリン酸化酵素阻害剤に対する耐性細胞を樹立しつつあり、薬剤耐性の異なる細胞株の解析により、B細胞受容体の部位特異的リン酸化と阻害剤感受性との連関の解析が進むことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度に目指した、今後の研究のための材料と方法の確立が順調に進展している。特にフローサイトメトリーを用いた解析では、これまでの市販の抗体では得られなかった部位特異的リン酸化の状態を検出することに初めて成功しており、またその状態が個々のB細胞株によって異なることがわかった。今後は、B細胞受容体の下流シグナルの主要構成要素であるSyk、BTK、ERK1/2、NFkBなどのリン酸化を個々の細胞レベルで多色フローサイトメトリーにより測定し、CD79B Y196のリン酸化との関係を調べることにより、これらのリン酸化の意義を解析する方向へと進んでいくことができる。 また、いくつかのB細胞株について、イブルチニブを含む様々なリン酸化酵素阻害剤存在下での長期培養により、イブルチニブ耐性細胞を樹立しつつある。これらの細胞株は、CD79B Y196のリン酸化とB細胞受容体の下流シグナルの動きと、各種阻害剤感受性の関係を探るためのモデルとなり得る。 免役組織染色については、研究協力者であるKristi Egland博士 (米国サンフォード研究所)の協力を得て現在検討中であるが、現在までのところ、染色には成功していない。しかし、仮に免疫組織染色に成功しないとしても、フローサイトメトリーによる解析により、本研究を進め、目的の達成を計ることは可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き、B細胞受容体の下流シグナルの主要構成要素であるSyk、BTK、ERK1/2、NFkBなどのリン酸化を個々の細胞レベルで多色フローサイトメトリーにより測定するための抗体パネルの選択と染色条件の至適化とともに、免疫組織染色の条件検討を行っていく。こうしてアッセイ系を確立した後、正常B細胞や患者サンプルにおけるCD79B Y196及びその下流のシグナル分子のリン酸化の解析に移行する。 さらにイブルチニブ感受性細胞と耐性細胞においても、CD79B Y196及びその下流のシグナル分子のリン酸化を解析し、これらのリン酸化とイブルチニブ感受性との連関を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度に計画していた実験が一部次年度にずれ込んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費として使用する。
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