研究課題/領域番号 |
16K07160
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
岡田 雅司 山形大学, 医学部, 講師 (70512614)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / ドラッグリポジショニング / 適応拡大 / JNK / xenograft / 腫瘍発生 / 幹細胞性 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに、c-Jun N terminal kinase (JNK)シグナルが、グリオブラストーマ・膵がん・非小細胞肺癌・卵巣がんの各種難治がん幹細胞の幹細胞性維持に重要な役割をはたすことを報告し、JNKが優れたがん幹細胞治療標的になり得る可能性を示してきた。しかしながらこれまでに、ヒトに安全に使用可能なJNK阻害薬が存在し得なかったが、近年ヒトでの安全性が確認されたJNK阻害薬であり子宮内膜症治療薬AS602801並びに、JNK経路阻害薬である物質Xに着目し、実験を行った。 まずAS602801は、上記各種がん幹細胞に対して処理を行うと、細胞増殖を抑えるとともにがん幹細胞性を低下させ、且つ腫瘍創始能も抑制した。さらに、全身投与により腫瘍内のがん幹細胞数を、目立った副作用なしに減少させることを見出し、国際誌であるOncotargetに掲載された。 物質Xに関しては、上記がん幹細胞に対して処理を行うと、がん幹細胞性を強力に抑制するとともに分化を誘導し、その腫瘍創始能を抑制すること、グリオーマ幹細胞の同所性移植モデルを用いて物質Xを投与すると、がん幹細胞数の減少および、有意な生存期間の延長が確認された。物質XはJNKの上流キナーゼの一つであるキナーゼYの阻害薬として開発された薬剤であることからキナーゼYをノックダウンすることで、キナーゼY-JNK経路のがん幹細胞性維持に対する影響を確認したが、細胞死が惹起されるのみで幹細胞性の抑制効果は見られなかった。 以上の結果より物質Xにがん幹細胞抑制効果は見られるが、直接の標的と考えられるキナーゼYはがん幹細胞の生存に対して働き幹細胞性に対しては別の標的があるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時点で得ていたCEP1347に関する予備的データを拡大して研究を行った結果、予備的データと合致するデータが得られたこと、更に、ヌードマウスを用いた腫瘍創始モデル、並びに同所性移殖モデルを用いた治療法の確率実験に於いても、予想に近い結果が得られたことから、これらの点に関しては当初の予定以上に進展していると考えられる。ただし、分子メカニズムの点においては、予想に反してMLK3が少なくとも各種がん幹細胞の幹細胞性維持ではなく細胞生存に関わっている可能性が高い、と言う結果が得られたことから現在、鋭意その標的因子を探索中である。 更にその他のJNK阻害薬に関して、安全性が確立されているAS602801も、これまでの我々の研究結果と同様に、各種がん幹細胞の幹細胞性をin vitro並びにin vivoでも抑制可能であることを見出し、国際に掲載された。 これらと並行して、がん治療分野では制吐剤としても使用されつつある抗精神病薬アリピプラゾールががん幹細胞の幹細胞性を抑制しつつ薬剤感受性を上昇させることを、さらに、血管攣縮抑制剤であるFasudilおよび同様の活性を持つY27632ががん幹細胞の薬剤抵抗性因子の一つであるSurvivin発現を抑制しゲムシタビンの感受性を増幅させると言う2つのドラッグリポジショニングを用いた研究を国際誌に発表することが出来た。 以上の研究活動を総合的に判断すると、当初の計画以上に研究は進展していると判断する、
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られた結果より、物質Xに少なくともグリオーマ幹細胞に対してはin vivoでも有効性を見出したことから、がん幹細胞標的治療薬としての可能性が示唆されたわけだが、その他の、in vitroで効果があった膵がん・卵巣がんに於いては、その効果は未だ不明である。また、物質Xがたしかにがん幹細胞の幹細胞性を失わせるが、その直接の標的と考えられるキナーゼYをノックダウンしても同様の効果が得られないことから、未知の標的に対する効果が上記効果を表現している可能性が考えられる。 以上の可能性より、まずは物質XでJNK経路が実際に確かに抑制されているかを、in vitro並びにin vivoで確認するとともに、その他の阻害効果があると考えられるキナーゼYファミリーのノックダウンについても試験する。またさらに、拡大可能な癌種を増やすために、膵がんおよび卵巣がんの治療モデルの確立に向けて、移植投薬実験を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、阻害薬の分子機構の解明のための実験を行いつつあるので、抗体・ノックダウン用siRNAなどの特異的消耗品が多数必要になるため、また、マウス実験を長期に渡って行っており、その経過観察や薬剤投与のための飼育費や薬品などに費用が必要なため、というのが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記にも述べたように、現在実験計画中の、薬剤分子機構の解明のための分子特異的な抗体や遺伝子関連消耗品および、継続実験中のマウス実験における投与薬剤や飼育料・技術料として使用する予定である。
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