研究課題
本研究の背景として、KRAS変異肺がんが上皮間葉移行状態により2種類に大別できること、それぞれの性質を持つ腫瘍においてMEK阻害薬の投与は異なるフィードバック機構を誘導することを明らかにしていた。そこで、平成28年度は、上皮系マーカー陽性のKRAS変異肺がんに対し汎EGFR阻害薬とMEK阻害薬の併用療法、間葉系マーカー陽性のKRAS変異肺がんに対しFGFR阻害薬とMEK阻害薬の併用療法の有効性について検討を行った。上皮系細胞株5株、間葉系細胞株11株を用いた検討において半数以上の細胞株において併用により細胞増殖の抑制およびアポトーシスの誘導が認められた。それぞれの細胞株より樹立したゼノグラフトモデルについても検討を行った。汎ERBB阻害薬アファチニブとMEK阻害薬トラメチニブによる併用は上皮系マーカー陽性細胞株NCI-H358のマウスゼノグラフトにおいて腫瘍の縮小を認めた。FGFR阻害薬BGJ-398とトラメチニブの併用についても、間葉系マーカー陽性細胞株LU99とNCI-H23のマウスゼノグラフトにおいて腫瘍の縮小を誘導することが可能であった。これらの検討結果を踏まえ、ジャクソン研究所が保有するヒト患者由来ゼノグラフト(PDX)を用いて併用療法の効果について検証した。このPDXは間葉系マーカー陽性(E-カドヘリン陰性、ビメンチン陽性)であり、FGFR阻害薬とMEK阻害薬それぞれでは治療効果を認めなかったのに対し、両者の併用により腫瘍の縮小を認めた。これらの知見をまとめ論文を投稿、Cancer Discovery誌2016年5月号に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
MEK阻害薬と併用効果を示す薬剤については、上皮系マーカー陽性腫瘍ではERBB3、間葉系マーカー陽性腫瘍ではFGFR1であることが、細胞株・マウスゼノグラフトを用いた検討から明確となった。患者由来ゼノグラフトモデルについても、自施設で樹立したものではないが、ジャクソン研究所が保有するモデルを用いて、その有用性を明らかにすることができた。一方で、上皮間葉移行に基づいた分類を行ってもMEK阻害薬と併用効果を示さない腫瘍が一定数存在する。これらに対する標的分子の同定については今後の課題である。
上皮系、間葉系、それぞれのKRAS変異肺がんに対する治療の効果予測因子の同定を試みる。これらと上皮間葉移行に関わるマーカーを組み合わせ、KRAS変異肺がんの個別化医療が提唱できることを目標とする。この際に最も問題となるのが、腫瘍内不均一性であり、実際の腫瘍では上皮系の成分と間葉系の成分が混在しているものと考えられる。腫瘍内不均一性も考慮に入れた治療戦略を立てるため患者由来ゼノグラフトモデルによる評価を推進する。
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