研究課題
本研究では、ヒト癌の悪性化過程でしばしば発現消失する癌抑制遺伝子Drsに着目し、その抗腫瘍作用に重要なSushiドメインのループ領域の立体構造をミミック(分子模倣) する低分子化合物(MI化合物)の抗腫瘍活性を解析し、新たな分子標的薬としての可能性を検討することを目的に実験を行った。前年度までのスクリーニングの結果から、MI化合物の中でも強い抗腫瘍活性を示す候補化合物を3種類にまで絞り込んだ(#0925、#0948、#0817)。その後もこれらを中心に候補化合物の選定を行ったものの、これらを超えるものを見つけることはできなかった。またin vitro実験の阻害濃度から、in vivoでのマウス皮下腫瘍形成実験やマウス膵同所性発がん実験では、かなりの高用量を投与する必要があり、必要量の化合物を期間内に確保できないことが予測された。このため、より低用量でも抗腫瘍活性を示す癌細胞株の選定とin vivo実験系の改良とともに、少量でも実施可能なin vitro実験系でのメカニズム解析を優先することにした。この結果、これまでに検討してきた膵臓癌や大腸癌細胞以外に、膀胱癌細胞にもMI化合物が抗腫瘍活性を示すことを新たに見出した。ただし、いずれの癌細胞株に対する効果も同程度で、著効を示す癌細胞株は見出せなかった。また、より実際の病態に近いin vivo実験モデルとして、ヒト膵臓癌細胞株SUIT-2を用いたマウス膵同所性発癌からの転移(播種)能を定量化する実験系を確立した。また、in vitro実験を通じて、MI化合物で処理したときには癌細胞株の培地の酸性化が抑制される傾向を見出した。このことは、我々がすでに報告したDrsによるWarburg効果の調節機構によるものと考えられ、MI化合物の抗腫瘍活性にもこの機構が関与する可能性が示唆された。
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Molecular Carcinogenesis
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