研究課題/領域番号 |
16K07171
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前川 平 京都大学, 医学研究科, 教授 (80229286)
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研究分担者 |
平位 秀世 京都大学, 医学研究科, 助教 (50315933)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 低酸素 / 慢性骨髄性白血病 / 転写因子 / C/EBPβ / インターフェロンα |
研究実績の概要 |
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は慢性骨髄性白血病(CML)患者の予後を劇的に改善したが、治療抵抗性および再発という大きな課題が残され、その原因はCML幹細胞が残存していることにある。CML前駆細胞を連続的に生み出すCML幹細胞は低酸素環境でBCR-ABL非依存性に生存しTKIの標的となると考えられ、BCR-ABLを標的にする戦略では低酸素環境に潜むCML幹細胞の殲滅は期待できない。これまでの研究において、我々は転写因子C/EBP βの発現がCML幹細胞を枯渇させる方向に働くことを見出した。本研究では「幹細胞性」を有する低酸素適応CML細胞株ではC/EBPβの発現低下を認めた。低酸素環境に潜むCML幹細胞の動態解明に基づき、CML幹細胞の殲滅を目指した分子標的治療法を開発するための研究を引き続き行った結果、BCR-ABLを介さずC/EBPβの発現を増強してGo期にあるCML幹細胞を細胞周期に導入させ、BCR-ABL依存性の増殖相に誘導すれば、TKIの標的にできると考えられた。その結果、インターフェロンα(IFNα)がSTAT5を介してBCR-ABL非依存性にC/EBPβの発現を上昇させることをin vitroで見出した。IFNαが実際にin vivoでCML 幹細胞の枯渇に作用するかについて検討するため、WT およびC/EBPβ KO マウスの骨髄細胞に、レトロウイルスを用いてBCR-ABL を遺伝子導入し、放射線照射したマウスに骨髄移植し、1 次レシピエントに対してIFNを投与した後に骨髄を採取し、フローサイトメトリーによるCML 幹細胞数の測定、2 次レシピエントでのCML発症や生存を観察した。その結果、確かにin vivoにおいてもIFNαがC/EBPβの発現を上昇させることで、CML幹細胞を枯渇させ得ることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の研究成果から、BCR-ABL及びIFNαによるC/EBPβの転写レベルでの発現上昇には、いずれもSTAT5の活性化を伴っていることが明らかとなっている。したがって、STAT5によるC/EBPβの発現制御について検討した。細胞株を用いて、クロマチン免疫沈降した産物を次世代シーケンスで解析したところ(ChIPseq)、マウスC/EBPβ遺伝子のコーディング部位の3’遠位部にSTAT5の結合配列が二箇所並んでいる部位にSTAT5がBCR-ABL依存性またはIFNα刺激依存性に集積することが明らかとなった。この部位にはBCR-ABL及びIFNα依存性にH3K27Acが集積したことから、エンハンサー機能を持つことが予想された。そこで、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集技術を用いて、当該部位の配列の削除したり、阻害したりすることによってBCR-ABL及びIFNα依存性のC/EBPβの発現上昇が抑制されたことから、今回同定した部位が機能的なエンハンサーであることが明らかとなった。このようにC/EBPβの発現上昇に関わる分子メカニズムを明らかにすることができた。さらに実際のヒト慢性骨髄性白血病でどうかという疑問に答えるために、慢性期慢性骨髄性白血病患者の骨髄もしくは末梢血から分離CD34陽性白血病幹細胞を含む細胞分画でもIFNαによるC/EBPβの発現上昇が確認されており、マウスと同様のメカニズムが作用している可能性が強く示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
現在ヒト慢性骨髄性白血病患者においてIFNαによるC/EBPβの発現上昇が確認できてる。今後、検討数を増やす事によって再現性を確認する。さらにIFNαがヒト慢性骨髄性白血病幹細胞の枯渇を誘導することができるか否かをin vitroのコロニー形成法を用いた実験で確認する。すなわち、IFNα添加によってコロニー数やコロニーのタイプに変化が生じるか、コロニーの継代に与える影響を評価する事によって、IFNαによる白血病幹細胞の枯渇誘導という治療効果が観察されるかどうかを検討する。さらにヒト細胞におけるBCR-ABLやIFNαによるC/EBPβの発現上昇にも、マウスで同定しているような機能的エンハンサーの作用を介しているかどうかを、細胞株を用いた実験あるいは既存の登録されているデータの解析によって明らかにする予定である。さらに、マウスで当該エンハンサーを抑制した場合にin vivoあるいはin vitroでの白血病進展にどのような影響がでるかを明らかにして、慢性骨髄性白血病の病態形成・進展におけるエンハンサーの機能的意義を明らかにする。早期の論文投稿も視野にいれて研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
慢性骨髄性白血病患者からの新鮮な検体の入手に時間がかかっていること、さらにChIPseq解析の結果を検証するために実施中の、ゲノム編集を用いた実験に時間を予想以上に費やしたために、次年度使用額が生じた。 ヒト細胞を用いたin vitro実験、マウス骨髄細胞を用いた遺伝子導入と骨髄移植を組み合わせた実験などに必要な分子生物学的試薬、抗体、血清、プラスチック器具などの消耗品、実験動物、国内外への学会参加のために使用する予定である。
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