研究課題/領域番号 |
16K07174
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
呉 しん 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (00764739)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 大腸癌 / 肝転移 / KRAS |
研究実績の概要 |
本邦において大腸癌の患者数は増加の一途をたどっており、その死因の少なくとも3分の1が肝転移によるとされる。一方で、転移へ発展するメカニズムについてはまだ十分解明されていない。近年、大腸癌の発生、進展にmicroRNA(以下、miRNA)が関与することが報告され、診断のみならず、予後および薬剤感受性を予測するバイオマーカー、さらには新規治療標的として注目されている。われわれは、肝転移に関与するmiRNAを探索することを目的とした。 試験コホートとして、NCBI Gene Expression Omnibusのデータベースに登録したマイクロアレイデータ(登録番号:GSE72199)を用い、肝転移に関与すると考えられるmiRNAについて候補の絞り込みを行った。検証コホートとして、2003年から2013年の間に当科とその関連施設で手術を受けた大腸癌患者134例を対象とし、腫瘍組織から抽出したRNAを用いて、miRNAの発現を定量的PCRによって確認した。 GSE72199(転移を有さない大腸癌原発巣16例、肝転移を有する大腸癌原発巣12例、および肝転移巣8例の計36例)において、転移を有さない原発巣と比較して肝転移巣で発現が低下するmiRNAを38種類同定した。その中で、肺癌や神経膠腫においてanti-oncomirとして報告されているmiRNA-487bに注目した。検証コホート(転移を有さない大腸癌原発巣96例、肝転移を有する大腸癌原発巣22例、および肝転移巣16例の計134例)において、miRNA-487bは、転移を有さない大腸癌原発巣と比較して、肝転移を有する大腸癌原発巣、および肝転移巣で有意に発現が低下していた。 細胞株を用いた抗腫瘍効果や、細胞内シグナルの抑制効果を確認し、予後因子となることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト大腸癌細胞株のHCT116とDLD-1に、リポフェクション法を用いてmiRNA-487bを核酸導入すると、細胞増殖能、コロニー形成能、および浸潤能が有意に低下した。肺癌において、miRNA-487bはKRASを標的とすることが報告されており、大腸癌でも同様の結果が得られるか検証した。ヒト大腸癌細胞株において、miRNA-487bがKRASの発現を抑制し、その下流シグナル分子であるERK、AKTのリン酸化を抑制することを確認した。血清応答配列レポーターアッセイにおいて、miRNA-487bはルシフェラーゼ活性を低下させ、転写活性を抑制することを示した。また、miRNA-487b はcleaved-PARPの発現を抑制し、抗アポトーシス作用を持つと考えられた。また、公開データベースにより、WNT/β-cateninシグナル経路の膜受容体であるLRP6がmiRNA-487bの標的遺伝子として予測された。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、miRNA-487bがLRP6を直接標的とすることを確認した。ヒト大腸癌細胞株において、miRNA-487bがLRP6のタンパク発現、およびリン酸化を減少させることを示した。 miRNA-487bの臨床的意義を明らかにするため予後解析を行った。全生存期間において、miRNA-487b低発現群はmiRNA-487b高発現群と比較して有意に予後不良であった。単変量・多変量解析を行ったところ、miRNA-487bは、独立した予後不良因子であると考えられた。大腸癌において、miRNA-487bは肝転移で発現が低下し、KRASおよびLRPを標的として発現を制御していることが示された。MiRNA-487bは肝転移抑制因子として、有用な新規治療標的となる可能性が示唆された。以上からこれまでのところ概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
miR-487bはKRASを標的として、その下流のERKのリン酸化を抑制し、SREや AP1レポーター応答性を阻害した。このことは抗腫瘍効果の一つの説明となる。一方で、Wnt シグナルの入り口の膜受容体であるLRP6は、その3'UTR領域にmiR-487bが結合することは分かったが、bete-cateninやAPC遺伝子に異常を持つ大腸癌でLRP6の発現意義がどこまで在るのかは不明である。この点に関して、Wnt異常のある大腸癌と異常のない食道癌とで対比して、細胞内シグナル伝達や、臨床サンプルでのLRP6の発現をbete cateninの蓄積とともに検討することとする。
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