MiR-487bが大腸癌肝転移の治療剤となりうるかどうかを明らかとすることが当初の目的であった。In vitro実験で、miR-487bの大腸癌細胞に対する抗腫瘍効果を確認し、miR-487bの標的遺伝子としてKRASやLRP6との直接的な結合をルシフェラーゼアッセイで証明した。更に臨床サンプルを用いてmiR-487bが大腸癌の予後因子となることも明らかにすることができた。しかしながら、miR-487bによる大腸癌に対する抗腫瘍効果はmiR-34aをはじめとする他のmiRNAに比べるとかなり弱く、miR-487bを肝転移の治療剤として開発することは困難と考えられた。 一方、miR-487bの標的遺伝子として同定したLRP6分子については、乳癌や肝臓癌で癌促進的に働くとの報告はあるものの、大腸癌での役割は知られておらず、これに焦点を絞り研究を進めることに進路変更した。LRP6に関しても大腸癌患者80例のmRNAサンプルを用いて予後との関連を解析したが、LRP6mRNAの発現量は予後因子とはならなかった。また、大腸癌組織80例の免疫染色の結果、LRP6の発現は全体的に低く、β-catenin発現とは負の相関が認められ、大腸癌においてはWntシグナル経路の活性亢進に伴い、LRP6の発現量が抑制されている可能性が示唆された。このことを大腸癌細胞にLRP6のリガンドとなるWnt3aとLRP6-siRNAを添加するin vitro実験で実証した。対比としてWntシグナル異常が少ない食道癌を対象にLRP6とβ-cateninの免疫染色(80例)と同様の細胞実験を行ったところ、食道癌ではLRP6がWnt活性の調節に働く重要な分子であることが明らかとなった。
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