研究課題
多発性骨髄腫(MM)は,形質細胞が骨髄内で単クローン性に増殖する難治性腫瘍である.進行したMMでは,細胞の悪性度が増し,全身の骨髄に腫瘍細胞が転移・増殖し,生命を脅かす.しかしながら,その病態進展機構には不明な点が多い.申請者は,WntシグナルがMM治療の標的として有用であることを報告している.一方,MM細胞では増加した細胞内の鉄が酸化ストレスを増強させていることを見出している.しかしながら,増加した酸化ストレスがMMの病態およびWntシグナル増強を惹起するか否かは不明である.平成28年度は,細胞内過剰鉄およびSTEAP1発現亢進がROS産生を誘導するか否かを証明する目的で,MM細胞株に鉄キレート剤や抗酸化剤の添加,あるいはsh-STEAP1を用いてSTEAP1発現を低下させる(MM-sh-STEAP1細胞)ことによるROS濃度の変化をフローサイトメトリー法で解析した.MM-sh-STEAP1細胞ではコントロール細胞と比較して有意に細胞内ROSが低下していることを明らかにした.また,ROSがMMの転移・浸潤能を制御している可能性については,MM-sh-STEAP1細胞を用いて,あるいはMM細胞株に抗酸化剤を添加し,ROSを抑制した際の浸潤・転移能の変化を2チャンバープレートを用いて評価した.ROS産生抑制は,migrationおよびinvasion能を低下させうることが証明された.また,MM細胞を抗酸化剤で処理した際に,Wntシグナルが抑制されていることがqRT-PCR法で示唆される結果が得られている.同結果から,ROSを低下させた際にWnt特異的転写活性の変化をルシフェラーゼアッセイで解析した.その結果,ROS産生抑制がWnt転写活性を有意に抑制することを明らかにしている.
2: おおむね順調に進展している
当該年度の計画どおり進捗しており,平成29年度の研究計画に変更なく研究を遂行可能と考えている.
平成29年度は,ROSがMM細胞の骨髄へのホーミングを促進させるか否かをin vivoモデルで検証する.具体的には,マウスxenograft全身播種モデルおよびscaffold systemを用いたin vivo imagingで解析する.さらに,新規MM転移治療薬開発を目的に,STEAP1あるいは前年度の研究結果からROSによって誘導される転移・浸潤能亢進を担う分子の立体構造を基に,同分子抑制剤候補をAutoDock(free soft)を使用し,small moleculeセット(ZINC)から同分子への結合度をバーチャルスクリーニングによって探索する.同解析結果から抽出されたcompoundsの抗MM転移薬としての有効性をin vitroおよびin vivoで検討する.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
PLoS One
巻: 11 ページ: e0168355
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