研究課題/領域番号 |
16K07181
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塚本 信夫 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (20407117)
|
研究分担者 |
河上 裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (50161287)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 免疫抑制 / IDO / TDO / がん微小環境 |
研究実績の概要 |
がん微小環境の不均一な免疫抑制機構として、まずTrp代謝酵素IDO1による抑制機構について研究した。IDO1による抗腫瘍免疫の抑制の一部は、がん細胞で活性化されたAhRの下流で誘導される免疫抑制分子が担うことがわかってきた。IDO1に存在する2箇所のITIMを同時に変異させてリン酸化できなくした変異体ではAhR下流で免疫抑制を担う分子の2つの誘導が抑制されたことからリン酸化の責任キナーゼ、あるいは下流因子の誘導に関わるシグナルを阻害することで免疫抑制を解除できる可能性が示唆された。リン酸化部位の配列からin silicoで予測された複数のキナーゼ候補から、患者がん組織の免疫染色においてITIMの一方のリン酸化が陽性となるがん細胞と同じ細胞に発現していることと、活性化型発現ベクターの遺伝子導入によりがん細胞内でin vitroでリン酸化できることを指標に、がん細胞内でのITIMの一方のリン酸化を担う責任キナーゼを同定することができたことから、IDO1を発現させた大腸がん細胞株にこのキナーゼに対する阻害剤を作用させたところ、AhR下流で免疫抑制を担う分子の1つであるThbs1の発現が転写レベルで抑制された。また、IDO1の様々な変異体にFLAGタグを付加してがん細胞内での発現量を比較したところ、IDO1のタンパク質量が著しく減少する変異体を見出した。この知見をもとに、がん細胞でのIDO1タンパク質量を減少させる薬剤の同定に至った。一方、別のTrp代謝酵素TDO2にITIMが存在する可能性を検討するためマウス及びヒトのTDO2について2箇所のITIM候補の変異体を作成したが、まだITIMであるという確証は得られていない。また、大腸がん細胞株を低酸素で培養した結果、発現誘導されるヒストン脱メチル化酵素を1種類同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究過程で予想外の発見があり、そのメカニズムを明らかにすることと、その現象を用いた免疫治療法の開発に関して集中的に研究を進めたため、申請時の初年度計画に含まれていた内容について一部着手できていないものがある。
|
今後の研究の推進方策 |
活性化AhRによるThbs1誘導制御機構の解明のため、THBS1遺伝子のDNAメチル化がAhRによるThbs1発現誘導の有無を規定するかどうか評価する。また、Thbs1がAhR依存的に誘導されないがん細胞においてDNAメチル化やヒストン脱アセチル化を解除し、恒常的活性化型AhR遺伝子あるいはIDO遺伝子の導入によりThbs1が誘導されるようになるかを評価する。DNAメチル化で説明できない場合、ヒストンH3のメチル化の部位を解析する。今年度明らかになったIDO1タンパク発現を著しく低下させる変異体について、その分子機構を明らかにし、その知見をもとに、IDO1の発現抑制による抗腫瘍免疫増強法を開発する。TDO2にITIMが存在するかどうかについて、引き続き検証を進め、またTDO2発現とマクロファージ食作用の関連について検討する。また、がん細胞でのIDO1、TDO2の発現を転写レベルで抑制する低分子化合物のスクリーニングを行う。低酸素環境で誘導されたヒストン脱メチル化酵素の遺伝子を過剰発現させたがん細胞株を作り、網羅的遺伝子解析からその細胞に高発現し正常細胞に発現しない抗原を同定し治療標的となる抗原を探索する。同時に、網羅的遺伝子解析の結果から、がん微小環境において免疫細胞など周囲の細胞に作用して免疫抑制環境を構築する可能性のある遺伝子を探索する。
|