がん微小環境の不均一な免疫抑制機構として、Trp代謝酵素IDO1による抑制機構について引き続き研究した。昨年度まで大腸がん細胞株においてIDO1の様々な変異体のがん細胞内での発現量比較から、IDO1のタンパク質量が著しく減少する変異体を見出したため、タンパク質量が減少する機構について今年度解析を試みた。まず、大腸がん細胞株で同定した変異が他のがん種でもIDO1タンパク質量を減少させるか検討したところ、メラノーマや乳がんの細胞株でも効率よくIDO1のタンパク質量を減少させ、このアミノ酸残基が広範ながん種でIDO1の安定な発現に関与していることが示された。一方、大腸がん細胞やメラノーマではIDO1タンパク質量に全く影響しなかった変異体が乳がん細胞株でIDO1のタンパク質量を著しく減少させることを見出した。まだ、この現象がどこまで一般化できるのかは不明である。次に、IDO1のタンパク質量が減少する機構について明らかにするためプロテアソーム阻害剤存在下でユビキチンの結合を検討した。同定した2種類の変異について、それぞれでIDO1タンパク質量の減少が認められたがん細胞株でIDO1変異体のユビキチン化が起こっており、ユビキチン-プロテアソーム系によって分解が起きていることが示唆された。さらに、同定した2種類の変異について、結合するE3リガーゼを探索したところ、複数のE3リガーゼの結合を示すことができたが、2種類の変異の間で異なるE3リガーゼの結合が認められ、E3リガーゼの使い分けが示唆された。また、IDO1のリン酸化を検出する抗体で大腸がん病理切片を染色した際にリン酸化が陽性になった部位で見られた表面分子の発現変化について、大腸がん細胞株へのIDO1の過剰発現によって再現することに成功し、この現象の分子機構を解析することが可能になった。
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