研究課題/領域番号 |
16K07184
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
福原 武志 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20359673)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分泌顆粒 / miR / イムノトキシン |
研究実績の概要 |
本年度は、論文発表2件、学会発表2件(がん分子標的治療学会、生化学会)、招待講演1件(感染症学会)、指導した学生2名は分子生物学会でポスター発表した(うち1件ポスター賞受賞)。 細胞外分泌物の包括的な解析を行うにあたり、初年度はまず条件を検討した。内皮細胞は、カルシウムや炎症などの刺激に依存して大きさの異なる顆粒を分泌する。サイズの異なる顆粒の分布および単離方法について、既知の方法を試行して基本情報を得た。PEG/NaClによる遠心沈降法、Dual centrifugation(DC)法、限外濾過膜のみを利用した遠心濾過分離法を検討した。Nanosightが年度後半に導入されたので、これにより分泌顆粒の分布を解析することが可能となった。予算の関係から細胞種を選抜して分泌物を回収する必要が生じたが、PEG/NaCl試薬を調製して適宜実験を行う。 初年度に計画した抗AREGモノクローナル抗体の作成、および抗IL13Ra2抗体の大量調製については、進行中である。抗癌剤を架橋した抗体薬物架橋体は、抗体あたりの薬物量に制限がある。そこで国立がんセンターとの共同研究により、リポソーム(被膜法)を作成したのち還元処理した抗体をリポソームに架橋して超遠心により精製した。調製したリポソームには、Alexa488標識されたリポソームを含有しており蛍光による判別を可能にしてある。予備的な実験として、このイムノリポソームに放射性核種を導入し、A375細胞(IL13Ra2陽性)にin vitroで放射性イムノリポソームを添加した。放射活性を経時変化とともに計測したところ、リポソームに比べて、抗体架橋したイムノリポソームが有意に細胞に取り込まれたと見られる結果を得た。抗体とリポソームの架橋効率の向上が検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞外分泌物の包括的な解析を行うにあたり、初年度はまず条件を検討した。予算の関係から細胞種を選抜して分泌物を回収する必要が生じたが、PEG/NaCl試薬を調製して適宜実験を行う。 計画した抗体の作成、および抗IL13Ra2抗体の大量調製については、進行中である。抗癌剤を架橋した抗体薬物架橋体は、抗体あたりの薬物量に制限があると考えられるため、DT3CおよびNS66抗体の腫瘍内投与では有意な効果を見いだせていない。DTscFvを設計し組換えscFv毒素として発現および精製を行った。分子量の大きなscFv型毒素は、精製効率や純度に問題点が見られたが2段階精製を行うことで解決された。現在までのところin vitroでDTscFvに顕著な殺細胞効果を見出していない。原因について現在検討中である。新たに国立がんセンターとの共同研究により、イムノリポソームを作成することを進めた。リポソーム(被膜法)を作成したのち還元処理した抗体をリポソームに架橋して超遠心により精製した。調製したリポソームには、Alexa488標識されたリポソームを含有しており蛍光による判別を可能にしてある。予備的な実験として、このイムノリポソームをA375細胞(IL13Ra2陽性)にin vitroで添加したところ、経時的に有効な結合活性を見出した。Ligand TracerによりイムノリポソームのKd値を算出することが可能となった。また放射性核種を内封したラジオイムノリポソームを用いた経時的な解析により、リポソームに比べて、抗体架橋したイムノリポソームが有意に細胞に取り込まれたと見られる結果を得た。抗体とリポソームの架橋効率の向上が検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は研究者の異動に伴う研究環境の整備および実験推進が十分ではなかった。しかしながら分泌顆粒の精製方法の検討は完了し、PEG/NaClによる濃縮方法が経済的かつ科学的にも有効であると考えている。次年度は、この手法を利用して当該細胞各種から回収して分泌因子等の解析を行う。特にAngiogenesisアレイあるいはRBM社のシステムにより分泌因子を測定する。これについてクラスタリング解析を行い、マーカー遺伝子に依存して分泌される分泌因子について詳細を得る。miRについても解析を進めるが、分泌因子の検索を優先する。抗体作成については引き続き行う。IL13Ra2抗体に関する知見について、投稿準備中であるのでこれを進める。ラジオイムノリポソームについては、引き続き共同研究により推進する。特に内皮細胞とがん関連線維芽細胞に注力して、分泌因子あるいは細胞表面分子について従来に申請者が推進してきた機能性抗体の探索を進め、IL13Ra2とAREG以外の新たな候補分子標的を認識する抗体の単離を進める。動物実験については、国立がんセンターとの共同研究により大学院生(東京薬科大学 白石俊介)とともに進める予定である。学会については、神経科学会、生化学会での発表(Biocon2017)を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は研究代表者の異動にともなう研究環境のセットアップが十分に行えず、また分泌顆粒の調製方法について検討を行ったため、包括的な解析をすすめることを慎重に行った。また特に分泌顆粒の精製については、市販の調製試薬は高価であり、多くのサンプルを解析するにあたっては、近年報告された様々な手法を検討してすすめる必要があると考えられた。その結果、次年度に一部を持ち越すことによって、より効果的な予算利用をおこなうことを計画したため。またNanosightの導入により、外部での受託解析を行う経費が削減された。なお、抗体の大量調製ならびに抗原の調製に関わる試薬については、従来より実績のある方法ですすめることにしたため、有効に活用できたと考えている。動物実験についても2年目で行うことを中心に考えており、予算の効果的な利用のためには一部を2年目に繰り越すことが望ましいと考えたので以上のようになった。
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次年度使用額の使用計画 |
2年目の実験計画にあげたように、分泌顆粒の解析ならびに動物実験に充当する。またイムノトキシンとしての治療有効性が十分でないと考えられることから、イムノリポソームの作成による代替的な手法を取り込むこととしたので、これの作成経費とする。共同研究により新たに試薬ならびに動物の購入に充当する。2年目の研究費経費の主な支出内容としては、分泌因子の解析費用とmiR解析に充当する予定である。また現在、リバイス中の論文が1つ、論文投稿準備中のものが複数あるため、これらの投稿ならびに掲載費用を検討する。
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