研究課題/領域番号 |
16K07188
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
高取 敦志 千葉県がんセンター(研究所), がん治療開発グループ, 研究員 (40455390)
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研究分担者 |
岩田 慎太郎 国立研究開発法人国立がん研究センター, 中央病院, 医員 (90549685)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 軟部肉腫 / 融合遺伝子 / ケミカルバイオロジー / アルキル化剤 / エピジェネティクス制御化合物 / 標的治療 |
研究実績の概要 |
本研究では、軟部肉腫、特に治療成績の向上が求められているEwing肉腫や滑膜肉腫に対して、特異性の高い標的配列9bpを認識するPIP-seco-CBI化合物を設計・合成し、原因遺伝子異常である融合遺伝子EWS-FLI1遺伝子やSS18-SSX遺伝子の発現を抑制する薬理効果をもつ化合物を取得することを目的としている。前年度のPIP-SAHAライブラリーを用いた実験において、融合遺伝子陽性細胞におけるIC50値がPIP-seco-CBI化合物に比べ高い結果となったことから、今年度はヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるSAHA以外のエピジェネティクス制御化合物を検討することとし、ヒストンアセチル化酵素活性化剤であるCTBによる修飾化合物の薬理効果について検討を行った。その結果、PIP-SAHAによる増殖抑制効果はSAHAに比べ弱く、H3K27アセチル化のレベルも低いことが示された。一方、PIP-CTBはCTBよりも低い濃度で増殖抑制効果を示し、今後をPIP-CTB化合物による抗腫瘍効果の評価を行う。また、PIP-CTBが標的とした遺伝子が細胞増殖および増殖関連シグナルの制御に関わる遺伝子であることが予想されることから、これらPIP-CTB標的遺伝子を明らかにすることが今後の重要な検討課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ewing肉腫のEWS-FLI1遺伝子を標的としたPIP化合物のうち、今年度はヒストンアセチル化を誘導する修飾を行った化合物について解析を行い、研究計画を順調に進めてきた。まずEwing肉腫由来細胞におけるヒストンH3K27アセチル化の誘導についてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤SAHAとヒストンアセチル化酵素活性化剤CTBを用いて検討したところ、いずれの細胞においてもSAHA処理によりH3K27acが誘導されたのに対して、CTB処理においてもSAHAに比べ弱いながらアセチル化が誘導されることを確認した。また、細胞増殖に対する影響を0.03 ~ 10 μMの異なる濃度で検討したところ、SAHAでは0.3 μM以上で増殖抑制効果が確認されるのに対して、CTBは10 μMと高い濃度が必要であった。さらに、PIPにSAHAを修飾した化合物PIP-SAHAを用いて同様に検討を行ったところ、SAHAに比べ増殖抑制効果が減弱する結果となった。このときのH3K27アセチル化の誘導も弱く、PIPによるDNAへの配列特異的結合によりヒストン脱アセチル化酵素の阻害が限定的となり、アセチル化ヒストンのレベルが上がらなかったのではないかと考えられた。一方、PIPにCTBを修飾した化合物PIP-CTBの増殖抑制効果を調べたところ、CTBよりも低い濃度で増殖抑制効果が得られた。このときH3K27acは弱いながら誘導され、シグナル分子の活性化を解析したところリン酸化ERKが抑制されていたことから、PIP-CTBによるエピジェネティックな変化により細胞増殖シグナルに関わる遺伝子制御が変化したものと考えられた。この増殖シグナルの制御に関わる分子がEwing肉腫の重要な標的分子となると予想されることから、今後PIP-CTBが標的とした遺伝子について明らかにすることが今後の重要な検討課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は増殖抑制効果が認められたPIP-CTB化合物について、抗腫瘍効果の評価を行う。また、滑膜肉腫の原因遺伝子であるSS18-SSX遺伝子の発現を抑制する化合物についてはまだ取得できていないことから、この遺伝子に対してもPIP-CTB化合物を応用し、滑膜肉腫由来細胞を用いて、融合遺伝子発現を抑制し細胞増殖を抑制する化合物の取得を行う。細胞増殖抑制効果が認められた化合物については担がんマウスにおいて投与実験を行い、抗腫瘍効果の評価を行う。また、化合物処理による融合遺伝子発現抑制をRT-PCR法およびWestern blot法により解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
別のエピジェネティクス制御化合物を用いた修飾化合物の薬理効果について、Ewing肉腫においてさらに検討を行うこととともに、滑膜肉腫の原因融合遺伝子に対してもこの化合物を応用する計画としたことから、その合成に必要な経費を次年度に使用する必要が生じたため。
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