H29年度まではEwing肉腫のEWS-FLI1遺伝子を標的とし、エピジェネティクな変化により細胞増殖抑制効果を示すPIP化合物の薬理効果について検討を行い、ヒストンアセチル化を誘導する候補化合物を取得してきた。使用しているEwing肉腫由来SK-ES-1細胞がもつ融合遺伝子のbreakpointが不明であったため、H30年度ではSK-ES-1細胞のゲノムDNAを用いたシークエンスによりbreakpointの同定を行った。その結果、EWS遺伝子のintron 8およびFLI1遺伝子のintron 4がbreakpointであることが分かったことから、PIP-seco-CBI化合物およびPIP-CTB化合物の標的配列がSK-ES-1細胞のEWS-FLI1融合遺伝子に含まれることを確認した。 一方、滑膜肉腫については原因遺伝子であるSS18-SSX融合遺伝子のDNA配列上において特異性の高い標的配列9 bpを認識するPIP-seco-CBIを設計・合成し、滑膜肉腫由来細胞を用いたin vitroの評価系において、その薬理効果について検討した。その結果、HS-SY-II細胞におけるIC50値が1.4 nMであり、強い細胞傷害活性を示すことが分かった。この化合物によるSS18-SSX融合遺伝子発現への影響を検討したところ、Western blot法により融合遺伝子発現の抑制が認められたことから、この化合物はSS18-SSX融合遺伝子を標的とする候補化合物であることが示された。 本研究課題により、特に治療成績の向上が求められている軟部肉腫であるEwing肉腫や滑膜肉腫の原因となっている融合遺伝子を標的とするPIP化合物の候補化合物を取得した。モデル動物における投与実験に必要な化合物の大量合成が進行中であり、担がんマウスにおける抗腫瘍効果の評価は今後の重要な検討課題である。
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