研究課題
研究代表者は食道癌など難治性癌に対する新規治療法の開発を目的として独自に同定した新規癌抗原であるGlypican-1(GPC1)に着目し、独自に開発した細胞内侵入活性の高いモノクローナル抗体を用いて抗体薬物複合体を作成し、その薬効を解析した。本抗体はマウスGPC1にも交叉反応する性質があるため、in vivoでの実験モデルとして、マウスGPC1発現肺癌細胞株(LLC-mG16)およびコントロール株(LLC-C7)を樹立し、in vitroでの薬効解析と、マウスシンジェニックモデルを用いたin vivoでの薬効と安全性を評価した。その結果、in vitroにおいて、LLC-C7と比べてLLC-mG16ではGPC1-ADCの感受性が約17倍向上した。このことから、GPC1-ADCの薬効は細胞表面上の癌抗原の発現量に依存することが確認された。さらに、LLC-mG16をC57BL/6マウス皮下に移植したシンジェニックモデルを用いた薬効試験では、PBS投与群とコントロールADC(10 mg/kg)投与群の間には腫瘍体積に差が認められなかったが、GPC1-ADCは投与量(1mg/kg, 3mg/kg, 10mg/kg)と投与量を増量すると薬効も強く見られたため、投与量依存的な抗腫瘍効果が確認された。GPC1-ADC (10mg/kg)およびコントロールADC (10mg/kg)投与群で見られた体重減少は一過性のものであったことから、GPC1-ADCの安全性も確認された
2: おおむね順調に進展している
研究代表者はこれまでに抗Glypican-1モノクローナル抗体にcathepsin Bにより切断されるペプチドリンカーとチューブリン重合阻害剤(Monomethyl auristatin F)MMAFをコンジュゲートしたGPC1-ADCとアイソタイプコントロール抗体のADCを製造した。そして、コントロールADCと比較してGPC1-ADCがGPC1発現陽性の食道癌細胞株に対して強力な抗腫瘍効果を示すことを明らかにし、その薬効はGPC1発現特異的であることをin vitroで証明した。さらに、研究代表者が開発した抗GPC1モノクローナル抗体はヒトGPC1以外に、マウスGPC1にも交叉反応を示すことを明らかにした。そこで、2017年度においてはADCを用いて、in vivoでの薬効と安全性の評価を同時に試みることとした。まず、マウスGPC1の発現が低いLLC株(マウス肺癌細胞株)にマウスGPC1を安定発現させた株LLC-mG16とコントロールベクター導入株(LLC-C7)樹立した。GPC1-ADC のIC50値はLLC-C7では16.35nMであったが、 LLC-mG16では0.961nMであり、マウスGPC1安定発現株ではGPC1-ADCの感受性が約17倍向上した。LLC-mG16をC57BL/6マウス皮下に移植したシンジェニックモデルにおいて、コントロールADCは抗腫瘍効果を示さなかったが、GPC1-ADCは投与量(1mg/kg, 3mg/kg, 10mg/kg)依存性に抗腫瘍効果を発揮した。この際、GPC1-ADC およびコントロールADCともに10mg/kgの投与群で見られた体重減少は一過性のものであったことから、安全性も確認された。
GPC1-ADCの薬効を詳細に解明するため、今後、食道癌ゼノグラフトモデルおよび食道癌PDXマウスを用いて抗腫瘍効果を解析する。
購入予定の試薬の在庫がなかったため、次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額については、次年度の研究計画に組み込んで使用する。
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