研究課題/領域番号 |
16K07202
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
毛谷村 賢司 学習院大学, 理学部, 助教 (70464386)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DNA切断修復 / 相同組換え / SMCファミリー |
研究実績の概要 |
ゲノムDNAの二本鎖切断は、最も重篤なDNA損傷であり、細胞死や遺伝子突然変異などを誘発する原因となる。一方、生物は、DNA切断を修復する手段としてDNA相同組換えというシステムを備えている。この相同組換え反応過程において、DNA切断部位周辺でのコヒーシンによるDNA構造の制御が重要であるが、その分子機構についてはよくわかっていない。大腸菌などのバクテリアにおいては、SMCファミリー由来のコヒーシン様タンパク質であるRecNが、DNAの二本鎖切断時に起こる相同組換え修復に関与することが知られている。研究代表者は、大腸菌のRecファミリーの内、唯一、生化学的な解析が行われていなかったRecNタンパク質の精製法を確立したため、本研究課題において、RecNタンパク質の機能解析を行った。精製したRecNを用いて、DNAとの相互作用について解析を行った結果、RecNは二本鎖DNAおよび一本鎖DNAとそれぞれ結合することがわかった。特に、一本鎖DNAに対する結合能が高いことが明らかになった。また、様々なヌクレオチド (ATP, ADP, ATPγS)存在下でのRecNのDNA結合活性について調べた結果、顕著な影響は見られなかったことより、DNA結合には、RecNのヌクレオチドとの結合や加水分解は関与しないことが示唆された。次に、環状型DNAに結合したRecNは、DNAを直鎖化することで、DNA上から解離することがわかった。このことから、RecNはリング状構造を形成し、その中空にDNAを通すような結合様式をとりうることが示唆された。さらに、RecAリコンビナーゼとの相互作用について調べ、RecNがRecAと物理的に結合することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、RecNタンパク質の分子機能の解明を目的に研究を行っている。初年度(H28年度)において、RecNのDNAとの相互作用について解析した結果、RecNが直接的にDNAと結合する活性を見出すことができた。さらに、RecNとDNAとの結合様式も明らかにすることができた。これらの結果は、DNA損傷部位にRecNが集合する仕組みを理解する上で重要な知見である。また、RecNのATP結合や加水分解とDNA結合との関係性は、見出すことができなかった。このことから、RecNのATP結合や加水分解は、DNA結合反応以外の活性に重要であることが考えられ、この意義を解析することは、RecNの分子機能解明の発展につながるものと考えられる。次に、これまでの遺伝学的な解析と一致して、RecNとRecAが直接結合することを生化学的解析により示すことができた。このため、この二者間の結合が、互いの活性にどのような影響を及ぼすかについて、今後詳細な解析を進めることで、DNA相同組換え修復の新たな分子モデルを提唱できるものと期待される。一方で、当初予定していた研究計画の一部については、上記解析を優先的に進めたことにより進行が遅れている。以上の研究成果を総合すると、当初予想していた以上に興味深い結果が得られているため、本研究課題の進捗状況としては、概ね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究結果を基づいて、さらに研究を展開および発展させる。また、2年目以降に研究開始を予定していた計画内容についても実施する。具体的な研究内容については、以下に記す。 1、RecNのRecAとの結合の重要性、DNA結合様式の意義、ATP結合やATP加水分解の必要性について、RecNのDNA損傷部位への結合、DNA構造制御、DNAからの解離の観点から解析を行う。また、RecAに依存して起こるDNA相同組換えの再構成反応系の一つであるDNA鎖交換反応へのRecNの影響について解析を行う。 2、RecNは構造および機能に特異的なドメインやモチーフを持つことが予想されている。そこで、様々なRecN変異体を種々の方法で単離、あるいは作製し、変異体のDNA損傷剤に対する感受性やGFP融合型変異体の細胞内局在の変動を解析する。さらに、DNA損傷剤に感受性を示した変異体や局在変化を示した変異体については、野生型と同様にタンパク質精製を行い、生化学的解析を進めていく。 3、出芽酵母のDNA損傷時に働くSmc5-6へテロ複合体のDNA損傷依存的な翻訳後修飾についての探索やその動態解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた使用額を少額であるが下回ってしまった原因として、研究成果の一部において、重要かつ興味深い結果が得られたため、そちらを優先して研究を進めた結果、当初予定していた研究内容の一部において計画通り進められなかったことが考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度(H29年度)の本研究課題の進展のために、本年度の残額(150,388円)については使用する。物品費、特に消耗品の消費が多く見込まれるため、翌年度に計画している物品費と合わせて使用する予定である。
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