研究課題/領域番号 |
16K07203
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保 亜紀子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (50455573)
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研究分担者 |
宮下 和季 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50378759)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メタボロミクス / 代謝 / 糖尿病性腎症 |
研究実績の概要 |
まず、糖尿病性腎症の発症過程をエネルギー代謝の面から評価するため、正常動物と病態モデル動物を用いて、CE-MSと質量分析イメージングを融合させたin vivoメタボロミクス解析を行い、皮質、髄質、皮髄境界でのエネルギー代謝関連代謝物の動態を評価した。具体的には、正常動物及び病態モデル動物から麻酔下で腎臓をサンプリングし、代謝物の分解を極力防ぐために1秒以内に液体窒素で凍結後、凍結切片を作製してイメージング質量分析を行なった。イメージング質量分析用の検体は、腎臓の層状構造が全て含まれる切断面で切り出しを行ない、測定後に染色された組織標本と比較しながら皮質、髄質、皮髄境界部それぞれ測定点からのシグナルを抽出した。イメージング質量分析では、組織切片中の物質含量の検量線の作製が出来ないため、別の方法で絶対定量を行なう必要がある。そのため、イメージング質量分析と同様に、代謝物の分解を極力避ける方法でサンプリングした臓器全体から水溶性代謝物の抽出を行ない、CE-MSによる定量解析を並行して行なった。当初の計画では、左右にある腎臓のうち片方をイメージング質量分析に、他方を定量解析に用いる予定であったが、1秒以内に両腎を適切に回収する事が技術的に非常に難しい事が分かった。そのため、定量解析は1匹の動物あたり1個の腎臓だけをサンプリングし、5匹の定量値の平均を元にイメージング質量分析で得られたシグナル強度を半定量値に換算する方法に変更した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は正常動物と病態モデル動物を用いて、腎臓のエネルギー代謝に関連すると考えられる代謝物のin vivo メタボロミクス解析を行なった。サンプル回収法に関しては、当初予定していた方法では代謝物の分解を極力避けながら安定して両腎を回収する事が難しく、予想していなかった技術的な問題が生じたが、組織回収方法を一匹当たり片腎に変更する事で解決することができた。 イメージング質量分析のサンプル調製法に関しても、検出感度を現行よりさらに向上させるために前処理方法の変更が必要になったが、マトリクス塗布を従来のスプレー塗布法から、蒸着再結晶法に変更する事で目的の代謝物の検出が容易になった。 これらの試料前処理方法の改善により、目的とする代謝物の局所での半定量解析が再現性良く行なえる実験系が構築でき、正常動物と病態モデル動物における腎臓のエネルギー代謝関連物質の量的把握を行なう事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度に構築した実験系を用い、病態時におけるエネルギー代謝の基質となる物質を把握するため、糖尿病モデル動物に安定同位体ラベルした13C6グルコース、アミノ酸、脂質などを投与し、一定時間後に組織を回収して同位体ラベルされた代謝物を質量分析イメージングとメタボローム解析を行なう予定である。出発物質の候補であるグルコースやグルタミン、不飽和脂肪酸であるパルミチン酸は、生体内でミトコンドリアに取り込まれ、TCAサイクルに利用される。TCAサイクルを構成する有機酸や解糖中間体である糖リン酸化物を効率的に検出する測定系を用いて、空間的分布を失う事なく安定同位体を含む代謝物を検出する。同時に、CE-MSによるメタボローム解析を行い、組織全体での同位体を含む代謝物の定量を行う。この2種類の解析を統合し、2次元的な代謝物の分布変化と経時的な代謝変化を合わせたin vivoメタボロミクス解析をおこなう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に当初予定していた安定同位体標識化合物の投与実験を年度内に行なう事が出来なかったために、それらの購入費用として計上していた消耗品費を次年度使用することに変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、エネルギー代謝の基質として利用される可能性のある、13C6グルコース、アミノ酸、脂質等の安定同位体標識化合物を購入し、正常動物及び病態モデル動物に投与し、一定時間後に組織を回収して同位体ラベルされた代謝物を質量分析イメージングとメタボローム解析を行なう。
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