この研究の最終目標は糖尿病性腎症の発症過程を組織レベルでのエネルギー代謝の面から評価し、代謝介入による治療法を見いだすことにある。最初に、正常動物を用いて、CE-MSと質量分析イメージングを融合させたin vivoメタボロミクス解析を行うための実験法を開発し、腎皮質、髄質、皮髄境界でのエネルギー代謝関連代謝物の動態を評価した。次に、正常動物と病態モデル動物、さらに薬物を投与した病態モデル動物から腎臓のサンプリングを行い、開発した方法で、組織中のエネルギー代謝の半定量を行い、代謝動態を解析した。それぞれのモデル動物群について、臓器のサンプリングを行う前に尿を採取して腎機能の評価を行い、腎障害の程度と、薬物による治療効果を皮質、髄質、皮髄境界でのエネルギー代謝関連代謝物の変化を元に評価した。 マウス腎臓では、エネルギー代謝関連代謝物が最終排泄形である尿酸に代謝される過程で、キサンチンオキシダーゼ(XO)による代謝を受けるが、組織中のXOが酸化型になっている場合は、分子状酸素を基質とした反応が起き、活性酸素による酸化ストレス(ROS)が発生する。今回用いたモデル動物でも、XOによるROSが発生していると考えられる代謝動態が観察されたので、XO阻害薬を動物に投与し、腎機能と代謝動態を検討したところ、XO阻害薬投与によって、腎機能とエネルギー代謝の両方が改善していることがわかった。 これらの動物実験の結果より、腎臓のアデニル酸代謝が分解方向にシフトし、XOによる反応が生じている場合には、XO阻害薬の投与によって、腎機能の改善とエネルギー代謝の改善が期待され、腎保護につながると考えられる。
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