研究課題/領域番号 |
16K07207
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
和田 健一 国立研究開発法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 協力研究員 (20525919)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミトコンドリアゲノム改変 / マイクロデバイス / 細胞質移植 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリア(mt)ゲノムは動物細胞における唯一の核外ゲノムであるが、実用的な改変技術が開発されていないためにその機能解析の実施が大きく制限されている。本研究ではmtゲノムの機能解析の実施に貢献する研究プラットフォームの構築を目指して、1)ホモプラズミックなmtゲノム改変技術の創出、および、2)mtゲノム変異細胞株ライブラリーの構築、という二つの連続した研究課題を設定した。 前半の研究課題では、申請者の独自技術であるマイクロ流体デバイスを利用したミトコンドリア移植技術によってmtゲノム欠失細胞(ρ0細胞)に対する単一ミトコンドリアの移植を実現し、mtゲノムのクローニング、およびそれに引き続くmtゲノムのホモプラズミーを構築する技術基盤を確立する。後半の研究課題では、前半の研究課題で開発した(する予定である)ホモプラズミックなmtゲノム改変技術を用いて可能な限り多くの種類のmtゲノム改変細胞株を樹立することで、mtゲノムの解析に寄与するmtゲノム改変細胞ライブラリーを構築することを目指す。具体的には、単一ミトコンドリアの移植によってランダムにmtゲノム変異が蓄積した細胞からmtゲノムをクローニングし種々のホモプラズミックなmtゲノム変異を有した細胞株を得ることで、mtゲノム改変細胞ライブラリーを構築する。この研究課題では、大規模なライブラリーを構築するためにmtゲノム改変細胞樹立のスループットを上げるための技術の開発も計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までにモデル細胞を用いた単一ミトコンドリア移植の実施は成功していたが、本研究で提案したρ0細胞への単一ミトコンドリア移植とその後の定着の確認、およびその回収には至っていなかった。平成29年度も引き続きこれらの課題に取り組んだが、5月に交通事故に遭い、その治療の為に半年以上の実験の中断を余儀なくされ、研究計画に遅れが生じた。その後、実験の実施に支障がない程度には回復し、研究を再開している。以下に実施状況の概略を記す。 本研究で提案するmtゲノム改変では、単一ミトコンドリアの移植に加え、それに引き続くミトコンドリア移植細胞の選別・回収が必要である。昨年度は、ドナー細胞にvirus thymidine kinase (vTK)遺伝子を導入することでGCVによるドナー細胞由来核を有する細胞の除去を試みたが、導入vTKのサイレンシングに伴うGCV耐性細胞の出現のリスクがあった。そのため平成29年度は、ドナー細胞の内在性thymidine kinaseを利用したBrdU選別に変更した。すなわち、TK(-)株より樹立したBrdU耐性のρ0細胞をレシピエント細胞として用いることで偽陽性リスクの少ないミトコンドリア移植ρ0細胞の選別法を構築した。この方法によって、ミトコンドリア移植が成立したことが期待される細胞のコロニーが得られており、得られたコロニーの解析とともに、細胞選別の再現性の確認、選別条件の至適化を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、モデル細胞を用いた単一ミトコンドリア移植には成功しているものの、本研究計画の中核であるホモプラズミックなmtゲノム改変は成功に至っていない。本研究計画の最終年度である平成30年度は、ホモプラズミックなmtゲノム改変を実現し、それを用いたmtゲノム改変細胞ライブラリーの構築を目指す。具体的には、以下の3つの研究課題をを計画している。 1)単一ミトコンドリア移植細胞の選別・回収法の構築: レシピエント細胞としてTK(-)株を用いることで、偽陽性のリスクの少ないミトコンドリア移植細胞の選別・回収が実施できる。この条件を至適化することで、単一ミトコンドリアが移植されたρ0細胞の選別・回収を実現する。 2)二種類のmtゲノムプールからのホモプラズミーの構築: 二種類のmtゲノムのみを含む最も単純なヘテロプラズミーを呈するモデル細胞をドナーとして用いることで、本研究計画で提案する単一ミトコンドリア移植によるホモプラズミーの構築が実現可能かを検討する。すでに、二種類のmtゲノムのヘテロプラズミーを呈するモデル細胞(HeLaと143Bのハイブリッド細胞)の樹立が完了している。 3)ランダムな変異mtゲノムプールからのホモプラズミーの構築: 課題1)、2)より単一ミトコンドリア移植、およびそれによるmtゲノムのホモプラズミーの構築に成功すれば、mtゲノム変異蓄積細胞をドナーとして用いることで、ホモプラズミックなmtゲノム変異細胞ライブラリーの構築が期待される。現在、ドナー細胞として用いるランダムなmtゲノム変異が蓄積した細胞を変異型DNAポリメラーゼγを導入することで作製中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の5月に交通事故に遭い、その治療の為半年以上研究が中断した。このため、予定していた実験が実施できなかったことにより、研究の遅れと次年度使用額が生じた。平成30年度は、各種解析の外部依頼を積極的に利用し、研究の遅れを取り戻したい。次年度使用額は、主としてそのための費用に充てる予定である。
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