ミトコンドリアゲノム(以下,mtDNA)は有酸素的エネルギー産生に関与する遺伝子群をコードするミトコンドリアに含まれる約16.5kbの環状DNAであるが,極端な多コピー性を呈するために,現在のところ,その実用的な改変技術,すなわち,ホモプラズミックなmtDNA改変技術は開発されていない.このような状況を背景に,申請者は,本研究に先行して行われた挑戦的萌芽研究にて,独自のマイクロデバイスを用いたmtDNA欠失(ρ0)細胞に対する単一ミトコンドリア移植によるmtDNAのクローニングに基づいたホモプラズミックなmtDNA改変技術の開発に取り組み,この技術に不可欠な単一ミトコンドリア移植には成功したが,その実現には至らなかった. 本研究では,これに引き続いてホモプラズミックなmtDNA改変技術の開発に取り組み,単一ミトコンドリアの移植を実施した後に必要な残されたいくつかの重要な要素技術を開発を行った.具体的には,融合細胞の解離,および,ミトコンドリアが移植されたレシピエント細胞の選択的回収法を検討した.前者は,マイクロトンネルを介した細胞融合を構築後,通常の増殖培地による回復培養によって80%以上高確率でそれが実現できることを発見した.後者は,細胞解離操作を行った後に,レシピエント細胞のBrdU耐性,およびρ0細胞としての栄養要求性を組み合わせた選別,具体的には,BrdU(+)/ウリジン(-)/ピルビン酸(-)の条件下で選別培養を行うことで,ドナー細胞由来のmtDNA,および,レシピエント細胞由来の核のみを持つ細胞を得ることに成功した.
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