研究課題
生命維持において、環境に応じた遺伝子発現調節は必須である。また、長期的な環境適応や体質形成には、エピゲノム変化を介した細胞の量的又は質的変化が重要である。骨格筋は強度の異なる二種の線維型、速筋と遅筋で構成され、運動や栄養等の環境要因によってその組成が変化する。筋形成における環境に応じたエピゲノム変化と線維型決定の仕組みは全くわかっていないため、この点を解明する目的で研究を実施した。本研究は、様々な細胞系譜で分化制御を担うヒストン脱メチル化酵素LSD1の機能に焦点を当てて実施した。具体的には、筋線維型を形作る線維及び代謝遺伝子の発現調節におけるLSD1の役割、環境因子によるLSD1機能の調節、の二点について検討した。前年度までの結果を踏まえて、本年度はマウス骨格筋線維型におけるLSD1の役割を明らかにする目的で、骨格筋特異的Lsd1欠損(KO)マウスを作製した。前年度までの研究で、遺伝子発現の線維型特異的は、筋芽細胞の分化初期に固定化されることを明らかにした。そこで、当該時期に特異的なLsd1-KOを薬剤で誘導できるマウスを作出した。生後の様々な時期に環境ストレスを加えると同時にLsd1-KOを誘導し、遺伝子発現解析を行った。その結果、環境ストレスに応じた遺伝子発現変化は、Lsd1欠損の影響を強く受けることが明らかとなった。研究期間を通して、LSD1が骨格筋分化過程における線維型及びエネルギー代謝型決定に重要な役割を果たすことが明らかとなった。また、グルココルチコイドやインスリン等の全身性栄養状態に応答して分泌されるホルモンにより、LSD1機能が調節されることがわかった。これらの点から、LSD1は環境に応じて骨格筋の質を決定する重要なエピジェネティクス因子であることが示唆された。本研究の成果により、環境に応じた体質形成の仕組みの一端が明らかとなった。
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