細胞は外的環境の変化に直面すると、シグナル伝達を介して DNA メチル化やヒストンタンパク質の翻訳後修飾(メチル化、アセチル化、リン酸化)などのエピゲノムを変化させ、環境変化に適応する。外的環境を介したエピゲノムの変化は、生活習慣病の発症に大きく関与している。しかし、外的環境の変化がエピゲノムとして細胞に記憶されるメカニズムは未だ不明な点が多い。白色脂肪細胞のモデルである 3T3-L1 細胞を用い、高グルコースあるいは低グルコース下における遺伝子発現変化、エピゲノム変化、細胞機能を解析した。高グルコース下での分化誘導刺激では、脂肪細胞分化のマスター転写因子である C/EBPα と PPARγ 遺伝子上で転写抑制に働くヒストン H3K9 トリメチルが脱メチル化され、遺伝子発現が誘導された。さらに高グルコース下では、糖代謝に関わる遺伝子群において、H3K9 ジメチルの脱メチル化と遺伝子発現誘導が起こり、糖代謝と脂肪蓄積が促進された。一方、低グルコース下では、C/EBPα と PPARγ 遺伝子上で H3K9 トリメチルの脱メチル化と遺伝子発現誘導が起こったが、糖代謝に関わる遺伝子群において H3K9 ジメチルの脱メチル化と遺伝子発現誘導が抑制され、糖代謝と脂肪蓄積が抑制された。ヒストン H3K9 脱メチル化酵素 KDM3A と KDM3B のダブルノックダウンにより、糖代謝に関わる遺伝子群の発現誘導と脂肪蓄積が抑制された。以上より、過剰なグルコースはヒストンの脱メチル化を介した機構で、脂肪細胞の糖代謝と脂肪蓄積を制御することが明らかとなった。
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