研究課題/領域番号 |
16K07224
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
青木 弘良 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 研究員 (50518636)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 一菌体ゲノム解析 / ハイドロゲルマイクロカプセル / 難培養微生物 / 全ゲノム増幅 / 増幅バイアス |
研究実績の概要 |
環境中の多くの微生物は,複雑な培養条件を必要とし,実験室で培養困難な,難培養微生物 (Yet-Unculturable Microorganism, YUM) と呼ばれている.従来YUMの機能は未知であったが,近年環境試料中のDNAを,Phi29 DNA Polymeraseによる全ゲノム増幅 (Whole Genome Amplification, WGA) と,次世代シーケンサーによるメタゲノム解析により,その機能が徐々に明らかになりつつある.しかしメタゲノム解析は,微生物の混合物を解析するため,個々の微生物の機能の同定が困難であった.そこで菌体を単離し,DNA解析する一菌体ゲノム解析が試みられたが,(1) 他のDNAの混入(コンタミ)や,(2) DNAが不均一に増幅され,偏り(バイアス)が生じる,などの課題があった. そこで内部に単一の菌体を包埋し,外側をアガロースゲルの殻で覆った,アガロースゲル・マイクロカプセル (AGM) を開発した.AGMは直径数10 μmの中空カプセルで,約10 μm厚のアガロースゲルのシェルを持ち,内部にYUMを包埋する液状のコアをもつ.AGMは (1) アガロースシェルによってコンタミを防ぎ, (2) 微細空間内におけるWGAによる増幅バイアスの抑制,が期待できる.しかしこれまでアガロースとアルギン酸コアの微小液滴を,オイル中でゲル化させると沈降するため,簡便にAGMを作製する方法はなかった.そこでアガロース微小液滴をオイルゲル中でゲル化させ,簡便なAGMの作製方法を確立した.比較のため,コア構造のないアガロースゲルビーズとAGMを比べると,アガロースゲルビーズでは,DNAの拡散が妨げられ,増幅が細胞の近傍に限定された.一方AGMでは内部の液状化コア全体に,増幅が見られた.そのためAGMはゲルビーズにくらべ,増幅量が多かった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オイルゲルによるAGM作製は簡便であるものの,約50-60℃にオイルゲルを加熱する必要があった.今後YUMをAGMに包埋し,培養や生化学分析など,様々な実験に用いる場合,室温の方が望ましい.そこでオイルの種類を検討し,室温で液状のポリグリセリン-6 オクタカプリレート (Polyglyceryl-6 Octacaprylate, PGO) を用いた方法を開発した.PGOは水とほぼ同じ比重のため,アガロース微小液滴が沈降しにくく,浮遊させたまま,ゲル化できる.そこで大腸菌をモデルYUMとしてAGMに包埋し,アルカリ変性後,Phi 29 DNA Polymerase (関東化学) により一次WGAを行ったところ,AGM内で特異的な増幅を確認できた.しかしAGM内の増幅DNA量は約1 ngと,次世代シーケンサでのDNA解析に必要な量 (1 μg) よりも少なかった.そこでAGMを溶解し,内部の増幅DNAを溶出させて二次WGAを行うと,アガロース電気泳動で増幅バンドを確認でき,次世代シーケンサ解析に十分な量のDNAが得られた.一方,直接大腸菌をマイクロマニピュレータで単離しWGAを行うと,電気泳動でバンドが見られず,十分量な量を増幅できなかった.そのためAGMは一菌体のDNAを増幅する方法として,有用であることが示された.
|
今後の研究の推進方策 |
今後,二次WGA後の一菌体由来大腸菌DNAを次世代シーケンサで解析し,多数の菌体を解析した結果とくらべ,どのくらい均一性が改善されたか,検証する.また実際にシロアリ腸内原生生物共生細菌 (Okuma, 2015)や,マウス腸内粘膜内微生物難培養微生物,また窒素固定根圏微生物の解析に用い,YUMネットワーク解析への本法の有用性を評価する. また本方法を特許申請した後,論文,学会等で発表し,本法の普及と社会への還元を図る.
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由: 当初予定していた解析用ワークステーションおよび解析用ソフトウェアが,既存のPCと,オープンソース・ソフトウェアで対応できることが判明したため.
使用計画: 繰越分は,消耗品(Phi29 DNA ポリメラーゼ,次世代シーケンサ試薬) 等に使用したい.
|