自然界には多様な微生物が存在し,様々な相互作用を通じ,複雑な生態系を構成している.多くの微生物は周囲の微小環境への適応により,複雑な培養条件を必要とするため,培養困難な難培養微生物と呼ばれる.未知の難培養微生物の機能を探るため,環境試料より直接DNAをランダムプライマーとPhi29 DNAポリメラーゼにより増幅するMultiple Displacememt Amplification (MDA) と次世代DNAシーケンサーによるメタゲノム解析により,多くの微生物が解析された.しかしメタゲノム解析では,集団に少数しか含まれない微生物の解析が困難であった.そこで直接単離した菌体のMDAが試みられたが,初発DNA量の低下に伴う,増幅時の不均一性(増幅バイアス)により,全体のゲノムデータが得られない課題があった. そこでアガロースゲル・マイクロカプセル (AGM) を開発した.AGMは直径数10 μmの中空カプセルで,アガロースゲル・シェルと,内部に微生物を包埋する液状コアをもつ.AGMは使い捨てのチューブ内で,2ステップのエマルジョン中でのゲル化と,コアのゾル化により作製する.本AGMを用いて大腸菌の1菌体ゲノム解析を試みたところ,従来法にくらべ高い均一性が得られた. またAGMは1菌体を保持しつつ周囲の環境と培地成分を交換でき,培養後菌体を容易に単離できるため,培養用容器としても有望である.そこでAGM内に大腸菌を包埋し培養したところ,菌体の生育を確認した. AGMは,一般的な実験器具,使い捨てプラスチック滅菌容器,および市販試薬を用い,一回に数10万個を作製できる.しかしAGMはマイクロマニピュレータを用いて,手作業で単離するため,スループット性能の向上には機械化が重要であった.そこでマイクロマニピュレータで,AGMを自動単離する装置 (AGMピッカー) の開発を進めている.
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