研究課題/領域番号 |
16K07229
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
山村 英樹 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (70516939)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放線菌 / 分類学 / 新種保全 / 海洋 / 土壌流出 |
研究実績の概要 |
亜熱帯島嶼では赤土流出により大量の土砂と土壌微生物が海洋へ流入し、海洋生態系の多様性をかく乱している可能性がある。本年度は赤土として沖縄県石垣島の轟川上流のサトウキビ畑の土壌を用いて、海水浸漬による放線菌の生残性と放線菌の分離を行った。さらに轟川の河口付近の沿岸域の海底泥からの放線菌の分離を行った。 【赤土の海水浸漬】赤土の海洋流出を想定し、赤土試料を人工海水(ダイゴ)で浸漬し、エアーポンプで曝気しながら1週間の静置を行った。その後、土壌試料からの放線菌数の測定を行ったところ、土壌放線菌は海水に浸漬されても50%から80%は生残することが分かった。生残する放線菌については16S rDNAの塩基配列を決定し、属種の簡易同定を行ったところ、Streptomyces cyaneusやStreptomyces spinoverrucosus、Streptomyces deccanensis、Streptomyces wuyuanensisに近縁であることが分かった。 【沿岸域からの放線菌の分離】実際に赤土の流出が度々報告されている轟川河口付近の沿岸域の海底泥から放線菌の分離を行った。その結果、赤土の堆積報告が多い底泥は堆積報告が少ない底泥と比べ10倍以上の放線菌数を示していた。分離株の属種の同定を同様に行ったところ、S. deccanensisとS. wuyuanensisが赤土流出株と重複していたことから、これらについては赤土に由来すると考えられる。 【沿岸分離株の海水要求性】海洋放線菌の定義である「生育に海水を要求」する分離株は僅か37株中1株しか存在しなかった。さらに、海水依存的に抗菌活性を発現するのかを調査したところ、1株のみではあるが海水添加時のみでA. nigerやS. cerevisiaeに対して新たに抗菌活性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤土の海水浸漬実験では循環型の実験装置を構築したが不具合が起き、定置型の実験装置に切り替えて実験を行った。沖縄でのサンプリングについてはオーピーバイオファクトリーに委託することでスムーズな試料の収集を行うことができた。また、轟川河口およびその沿岸域である白保はWWFによる赤土流出の定点調査が行われているためサンプリング地として選定した。当初の予想通り、赤土に生存している放線菌は海水浸漬では最大50%ほどしか減少しないことから、赤土流出は海洋に陸生放線菌を流入させると考えられる。また、赤土堆積報告の多い沿岸底泥には陸生と考えられる放線菌が多く分離された。本年度の目標は赤土及び沿岸域の放線菌の分離であるため、当初の予定通りに実験が進められた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、沖合の底泥から放線菌の分離を行い、轟川河口から離れた場所で、赤土の流出の影響が少ない場所でのサンプリングを行う予定である。海洋放線菌の定義は「生育に海水を要求する」とあるが、創薬資源である放線菌においては「海水に依存する抗生物質生産がある」ことも重要な要素である。今後は、分離株の生理活性を海水あり、なしで評価を行うことで、海洋放線菌の新たな評価基準として提案していければと思う。 海洋からの放線菌の分離方法は一定の分離方法があるわけではないため、より普遍性の高い分離培地や前処理方法の工夫などを行う予定である。
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