イネ科ドクムギ属の外来植物は、農耕地において作物の減収をもたらす問題雑草となっている他、河原や草地、砂浜海岸など自然度の高い生態系にも侵入し、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種」に指定されている。ドクムギ属は、牧草や緑化植物として利用するための意図的な導入経路と、海外の穀倉地帯で雑草化した個体の種子が輸入穀物に混入して持ち込まれる非意図的な導入経路により国内に侵入している。ドクムギ属が様々な生育地において分布を拡大している要因として、複数の侵入ルートを介した多様な系統の侵入が貢献しているのではないかと考えられる。本研究では、侵入源と分布拡大後の個体群の遺伝構造および生態学的特性を比較し、各生育地への侵入経路の推定および分布拡大メカニズムの解明に取り組んだ。 SSRを用いた集団遺伝学的解析により、牧草や緑化植物として使用されている栽培個体と輸入穀物混入個体との間には遺伝的な分化が見られ、農耕地や河川敷に生育しているドクムギ属は栽培個体に近縁で、穀物輸入港や砂浜に生育しているドクムギ属は輸入穀物混入個体に近縁であることが示された。交配実験によりこれらは交配可能であることが示されたが、野外では明瞭な遺伝的分化が見られることから、異なる導入経路によって侵入した異系統が交雑することなく異なる生育地へ分布拡大していることが示された。 このような分布拡大パターンの違いをもたらした要因を明らかにするために、農耕地および砂浜における相互播種実験と、発芽時および実生の耐塩性および耐乾性について評価する実験を行った。農耕地および砂浜集団はそれぞれの生育地において高い適応度を示したが、砂浜集団のほうが農耕地集団よりも耐塩性および耐乾性が高いという傾向は見られなかった。砂浜集団は農耕地集団よりも種子休眠が深く出穂時期が早いが、このフェノロジーの違いが重要である可能性が示唆された。
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