研究課題/領域番号 |
16K07233
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
伊谷 行 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (10403867)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 共生 / 巣穴 / 片利共生 |
研究実績の概要 |
海洋における生物多様性の特徴として、他の生物や生物の作る構造物を住処とする住み込み共生の重要性が提唱されている。干潟の絶滅危惧動物でも、他の生物の巣穴を利用する「巣穴共生」が多数知られているが、その生態はほとんど解明されていない。本研究では、無脊椎動物の巣穴を利用する甲殻類を対象として、野外採集とメソコズム実験を通して、宿主特異性と巣穴利用の依存度を定量的に評価するとともに、形態計測と採集時の情報から、生活史と繁殖生態の推定を行う。 住み込み共生を行うカニ類のトリウミアカイソモドキの宿主利用に特異性があるのかどうかを野外採集とメソコズム実験から調査を行った。その結果、本種がアナジャコ類とスナモグリ類の巣穴を主に利用すること、宿主による排除行動に対して逃避行動を行うことが明らかになった。また、同所的に分布する巣穴形成者のヒメヤマトオサガニの巣穴からは本種は得られず、メソコズムに形成された巣穴にも少数の個体しか利用が確認されなかった。しかし、ヒメヤマトオサガニの巣穴を利用した個体においては、長時間の滞在が行われたため、進化的な時間を考えると、宿主転換と種分化の素地があるものと考察された。 また、干潟域におけるアナジャコ・スナモグリ類以外の巣穴形成者として、テッポウエビに着目して、樹脂を用いた巣穴構造の解明と共生者相の調査を行った。その結果、過去に石膏を用いて行われた調査に比べ、より複雑かつ大型の巣穴構造が得られた。また、セジロムラサキエビの共生が確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アナジャコ類の巣穴共生者としてもっとも普通なトリウミアカイソモドキを用いて、その宿主特異性のメカニズムについて明らかにすることができた。さらに、本種も含め、アナジャコ類の巣穴共生者の定量採集を開始しており、29年度以降、各種の生活史や繁殖生態に関する情報が得られる予定である。 土佐湾における干潟~浅海域の特徴的な種として、テッポウエビの巣穴構造を明らかにし、巣穴に共生するセジロムラサキエビを採集することができた。本種はアナジャコ類・スナモグリ類の巣穴にも共生する特異性の低い種であると考えられることから、今後、特異性の高いクボミテッポウエビと共生生態の比較を行うのに適している。また、口脚目甲殻類のサヌキメボソシャコの分布を明らかにし、本種が巣穴研究者として研究対象となりうることを確認し、その巣穴構造について調査中である。 奄美大島において大型スナモグリ類から共生性テッポウエビ類やカニ類を採集することができた。次年度も採集を行い、個体数を増やすことにより、巣穴共生や個体群に関する情報を得ることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
土佐湾において、アナジャコ類・スナモグリ類の巣穴から、巣穴共生者の定量採集を引き続き行い、トリウミアカイソモドキ、シタゴコロガニ、クボミテッポウエビ、セジロムラサキエビの共生生態、生活史や繁殖生態に関する情報を得る。また、ゴカイ類に共生する甲殻類の採集も開始して、ウチノミヤドリカニダマシ、ヤドリムツアシガニ等の甲殻類の生態的知見を得る予定である。 瀬戸内海において激減していたユムシについて、28年度は生息場所の確認を行うことができなかった。しかし、本年度に入り、共生者とともに採集できる場所の発見があった。ユムシと巣穴共生者を採集し、特に、オオヒメアカイソガニとウモレマメガニを用いて、メソコズム実験より生態情報を得る予定である。また、過去に採集されている共生者、ムラサキエビモドキの再発見を期待している。 また、温帯域と熱帯域では生息環境が異なるとともに、巣穴共生を行う種が異なっている。熱帯域の巣穴共生者の採集を行うため、奄美大島、沖縄、フィリピンでの調査を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
瀬戸内海において、ユムシとアナジャコ類が激減し、予定していた定量調査を行うことができなかったため、調査旅費に残額が生じた。また、調査の一部は大学院生の学位論文として研究を行うこととなったため、調査補助謝金を使用しなかった。さらに、学会誌に論文を投稿中に出版社の変更がし、予定していた投稿料と印刷料が無料となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
29年度になり、瀬戸内海においてユムシの生息場所を発見し、28年度に予定していた調査が実行可能となる見込みである。また、フィリピンにおける調査では、予定していた研究協力者に加えて、現地のコーディネータを兼ねて当研究室の留学生、短期間で成果をあげるために大学院生も同行する予定であり、昨年度の残額を有効に利用する。
|