研究課題/領域番号 |
16K07240
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
石濱 史子 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (80414358)
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研究分担者 |
角谷 拓 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (40451843)
岩崎 貴也 神奈川大学, 理学部, 助教 (10636179)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝的多様性 / 遺伝構造 / 保護区選択 / パターン比較 / 維管束植物 / シミュレーションモデル |
研究実績の概要 |
遺伝的多様性は、生物多様性の重要な要素の 1 つである。しかし、保護区選定などの際には、種内の空間的な遺伝子の分布パターンである、遺伝構造はほとんど考慮されていないのが現状である。これは主に、遺伝構造に関する実測データが不足していることによる。 遺伝構造の情報不足をモデル補完することをめざし、日本列島での植物の空間的遺伝構造のパターンを再現するシミュレーションモデルの開発を行うとともに、遺伝構造のパターン類型化に必要な指標の開発と適用、さらに、保護区選択において、環境・地理変数が遺伝構造の代替指標となる可能性の検証を行った。 空間的遺伝構造のパターンを再現するシミュレーションモデルの開発では、H29年度に現実的な日本列島の地形と気温、および過去50万年間の気候変化を導入したシミュレーションによる挙動確認を実施しており、モデルの基本的な挙動は妥当であるものの、入手可能な古気候値の不足からレフュージア位置の推定にずれが生じることを確認したところである。古気候値が研究期間中に改善されることは期待できないため、遺伝構造の情報を補完する他の手段として、環境・地理変数による代替可能性の検証を行った。文献から収集した、日本の植物の遺伝構造の実測値を用いて、直接的に遺伝的多様性を最大化するように保護区選択を行った場合と、代替指標として、気温・降水量・地理的位置を用いてこれらの多様性を出来るだけ広くカバーするように保護区選択を行った場合を比較したところ、多くの種では、代替指標に基づく方法でもほぼ同等の遺伝的多様性をカバーでき、代替可能性が高いことが明らかとなった。しかし、一部、代替性が低い種が認められ、これらの種に共通する特性を把握することで、環境・地理指標を保護区選択における遺伝構造の情報の代替指標として使用可能な種であるかどうかを判定することが可能となると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
モデルシミュレーションによる再現が古気候値の問題により困難であったため、方針転換を行った。また、研究期間中に研究代表者の所属機関内での異動により、半年間研究の中断があり、文献からの遺伝構造のデータ収集・整備に遅れが生じた。 シミュレーションによる再現以外の、遺伝構造を代替する手段として、環境・地理変数による代替可能性の検証を行った結果、分析対象とした日本国内の種において、多くの種で代替可能性があることを明らかにすることができた。この成果は、不足する遺伝構造の情報を補完する手段を具体的に提案するものであり、大きな進捗である。ただし、どのような種で代替が可能であるのか、遺伝情報以外の生態特性など容易に入手可能な情報で事前に判断できなければ、この代替手法を遺伝構造が未知の種の保護区選択において実際に利用することができない。事前に判断できるようにするためには、出来る限り多くの種の文献情報に基づいて、環境・地理情報による代替可能性の比較検証と、それぞれの種の生態特性との関連付けを行うことが必要である。文献データの収集・整備に遅れが生じたことで、このような生態特性との関連付けがまだ十分に実施できていないため、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
種ごとに、保護区選択において、環境・地理変数によって遺伝構造の情報を代替可能であるかどうか、事前に判別することを可能とするため、より多くの種の遺伝構造の情報に基づいて、生態特性ごとの代替可能性の整理を行う必要がある。 この目的のため、文献および著者に直接依頼することによる遺伝構造のデータ収集・整備を継続し、分析対象とできる種数を増やす。また、整備を行った種について、生態特性・分布域等に関する情報整備を行い、遺伝構造に関するパターン類型化と、環境・地理変数による代替可能性の評価の結果と、生態特性との対応付けを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献からの国内の植物種の遺伝構造に関するデータ収集および整備にやや遅れ生じたため、作業者補助者への賃金・謝金分に相当する額が次年度使用額となった。次年度においては、このデータ収集・整備を継続し、当初予定どおりに作業者補助者への賃金・謝金として使用する計画である。
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