研究課題/領域番号 |
16K07241
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
千葉 由佳子 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (70509546)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ポリA鎖 / シロイヌナズナ / mRNA分解 / 翻訳制御 |
研究実績の概要 |
mRNAの3末端付加されたポリA鎖は,mRNAの安定性と翻訳効率の両方に影響を及ぼす重要な要素と考えられている。本研究ではシロイヌナズナのポリA分解酵素のひとつであるAtCCR4a/4bに着目して,変異株を用いた遺伝学的解析と生化学的解析を組み合わせた研究を展開している。atccr4a/4b変異株は植物の成長に伴って,バイオマスの増加,概日時計の遅延などの様々な表現型を示す。つまりAtCCR4a/4bによるポリA長制御は植物の生育にとって重要な役割を持つといえる。この役割を理解するためには,AtCCR4a/4bが標的としているmRNAの単離が不可欠である。本研究ではatccr4a/4b変異株とそのコントロール株を用いて,ポリA鎖長を網羅的に検出するTAIL-seqを行うことで標的遺伝子群を同定し,さらに翻訳効率を網羅的に測定するRibo-seqとmRNA蓄積量の網羅的解析であるRNA-seqを組み合わせることで,mRNAの安定性と翻訳効率のどちらに影響をおよぼしているのかを明らかにすることを目指す。本年度は植物サンプルに対応したTAIL-seq法の改良を行ってきたが,より効率の良い新規の方法が公開されたことに伴って手法の変更をすることにした。植物サンプルへの適応に時間を要することから,すでに個別遺伝子の解析により見出している概日時計の遅延に関連する標的遺伝子に着目して,翻訳量を網羅的に測定するRibo-seqとmRNA量の網羅的測定であるRNA-seqを行った。その結果,この標的時計遺伝子の翻訳効率は,期待に反して変異株で低下していることが明らかとなった。また,ほかの時計遺伝子に関しても,翻訳効率の変化が認められた。今後は,ポリA鎖長の変化との関連を調べるとともに,数理モデルを用いたシミュレーションによって変異株にみられる概日時計の遅延が説明できるか検証する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はatccr4a/4b変異株が示す概日時計の周期の遅れという表現型を分子レベルで理解するために,日周変動条件下で栽培したatccr4a/4b変異株とコントロール株を用いて翻訳量を網羅的に測定するRibo-seqとmRNA量の網羅的測定であるRNA-seqを行った。Ribo-seqとRNA-seqのデータから,各遺伝子の翻訳効率を求めることができる。時計遺伝子のひとつがatccr4a/4b変異株においてコントロール株より長いポリA鎖長をもつことが,生化学的解析から明らかとなっていたことから,この時計遺伝子の翻訳効率が上昇していることを期待した。しかしながら結果は逆で,翻訳効率が変異株で低下していることが明らかとなった。このふたつの網羅解析からは,変異株におけるほかの時計遺伝子の翻訳効率の変化も検出することができ,いくつかの時計遺伝子において翻訳効率が変化していることも見出した。本研究では上述のふたつの網羅解析に加えて,ポリA鎖長の網羅的測定であるTAIL-seqも同時に行い,ポリA鎖長の変化と翻訳制御あるいはmRNA分解制御の関係を明らかにすることを目指している。TAIL-seqに関しては,本年度は植物サンプルに対応したプロトコールの改良を進めていたが,より効率の良い新規の方法が公開されたことに伴い,方法を変更する方向で検討している。本研究で提案している3つの網羅解析のうち二つを実施したことから,おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ポリA鎖長の制御とmRNA安定性制御あるいは翻訳制御の関わりを理解するためには,ポリA鎖長の網羅的測定の確立が必要である。新規に報告された方法は,mRNAの3’-末端に付加するアダプターを改良することで,従来の方法では大きな問題であったrRNAの混入を大きく抑えることができ,検出の感度を上げることができる。また,実験にかかるコストを大幅に削減することができる。今後は新規の方法に基づいた予備実験を行い,実験法の確立を第一に進める。 概日時計の遅延に関連する解析は,翻訳効率が変化していた時計遺伝子のポリA鎖長の比較を個別に進めるとともに,数理モデルを用いたシミュレーションを行うことで変異株にみられる表現型が説明できるか検証する。一方で,atccr4a/4b変異株はバイオマス増加という農学的にも重要な表現型を示し,この表現型に関連する標的遺伝子はいまだ見出されていない。今後は,バイオマス増加に着目して,統合的網羅解析を行いポリA鎖長制御の重要性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリA鎖長の網羅的測定法に関して,より効率の良い新規の方法が公開されたことに伴って手法の変更をすることにした。そのため実験系の確立をやり直す必要があり,その費用として次年度費用額が生じた。
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