翻訳停滞に起因するmRNA・新生タンパク質品質管理機構Ribosome-associated Quality Control (RQC)に関わる因子の脳神経系における機能解明を目的として、昨年度までにRQC誘導に必須なZNF598のマウス海馬におけるノックダウンモデルが長期記憶の阻害を示す結果が得られていた。本年度は、ZNF598が細胞体だけでなく、シナプスにも存在すること、ZNF598自身の発現がシナプス刺激により減少すること、ZNF598が神経細胞において全タンパク質合成レベルを抑制することを示唆するデータが得られた。これらの結果は神経細胞におけるZNF598による翻訳抑制が長期記憶の形成に必須な役割を果たすことを示唆している。 また、RQCにおいて新生ペプチド鎖の分解に必須なE3 Ligase、LTN1の発現抑制が神経突起伸長を阻害する結果が昨年度までに得られていた。RQCにおいては、mRNAから解離後の60Sリボソーム上でCAT tailと呼ばれるAla、Thrからなるペプチドタグが新生ペプチド鎖のC末端に付加される。これによりリボソームトンネル内の新生鎖のリジン残基がリボソーム外へ押し出され、LTN1による効率良いユビキチン化が促進される。この反応は出芽酵母ではRQC2によって行われる。一方、LTN1欠損によりCAT tailが付加された異常新生鎖が蓄積すると凝集体形成を誘導することが出芽酵母において示されている。今回、RQC2の哺乳類ホモログであるNEMFの解析を進め、NEMFが哺乳類細胞においても終止コドンを欠失したnonstop mRNAの翻訳時にCAT tailと考えられる配列を新生鎖に付加すること、nonstop産物が核内凝集体を形成すること、LTN1 KDによる神経突起伸長阻害がNEMFとのダブルKDによりレスキューされることが明らかにされた。
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