前年度までに、iPS細胞誘導時のX染色体再活性化を検出するために、HprtノックアウトC57BL/6J(B6)とM. spretus(Sp)を掛け合わせたマウスから調整したMEFからiPS細胞誘導を行い、その誘導過程で、二本あるX染色体のいずれからRNAの転写が起きているかSNP cDNA typingで検定する系を構築した。そして、我々独自の3S reprogramming systemを用いて作製した、誘導が途中で停止したiPS細胞に対してSNP cDNA typingを行い、X染色体の再活性化状態の異なるiPS細胞を得ることに成功した。 そこで本年度は、それらのX染色体の再活性化状態の異なるiPS細胞において、X染色体上のどの領域から転写が起きているかRNA-seqによって明らかにし、その情報を元にX染色体再活性化において転写が開始される領域を同定することを試みた。 まず始めに、二本あるX染色体のいずれからRNAの転写が起きているか区別するためのRNA-seqの条件を決めるために、B6とSpを掛け合わせたマウスの体細胞から抽出したRNAに対してRNA-seqを行い、SNPの読み分けを試みた。その結果、通常のRNA-seqより2倍程度深く読むことによってSNPの区別が可能であることを明らかにした。次に、同様の条件を用いて、X染色体の再活性化状態の異なるiPS細胞についてRNA-seqを行い、各細胞におけるX染色体全体の転写プロファイルの情報を得た。SNPを用いて、各細胞において不活化X染色体からRNAが転写されている領域を探索した結果、X染色体上の二つの領域から、X染色体再活性化初期にRNAが転写されていることを明らかにした。 今後は、この同定した領域に結合する転写因子やヒストン修飾を明らかにすることによって、X染色体再活性化の分子機構を明らかにすることを目指す。
|