研究課題/領域番号 |
16K07251
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 牧 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (20400690)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | トポイソメラーゼ1 / miRNA / aicda / ゲノム不安定化 |
研究実績の概要 |
Top1 mRNAへのAIDによるmiRNA制御を解析するにあたり、トポイソメラーゼ1(Top1)mRNAにAgo2が結合することはmiRNAによるTop1の制御を新たに証明するものであり、mRNAの部分を用いたルシフェラーゼ解析、in vitroでのRNAプローブへのAgo2の結合解析などの結果を総合しTop1mRNAの3'UTRにAgo2が結合すると当初、推測した。 これを根拠にCH12細胞でCRISPR/Cas9法によりTop1 3'UTRをノックインーノックアウトした細胞株を作成し、Top1の変化をRNAとタンパク質の両方の観点から解析した。予想に反してTop1 mRNAは蓄積するもののタンパク質量は大きく変化せず、その制御がmRNA制御でなく翻訳調節の段階であることが発見された。また、3'UTRノックアウト細胞においてもTop1 mRNAとAgo2結合の強さに変化はなく、Top1 mRNA上のmiRNA結合部位は、そのcoding領域であることを明らかにした(未発表)。 Top1タンパク質量低下はゲノム不安定化に直結し、細胞のがん化メカニズムの一端を説明する。Top1 mRNA 3'UTRノックアウト細胞と野生型細胞、AIDノックアウト細胞の3種類にFLAGタグ、Hisタグを融合したAgo2の導入に成功し、クラススイッチに支障がないことを確認している。さらにAgo2の免疫沈降とRNA ligaseを用いる方法でTop1 mRNAに結合するmiRNAの同定を進めており、Top1上のmiRNA結合部位が明らかになれば、その相互作用を制御することは可能である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Top1がDNAを切断した時に特異的に形成される酵素活性中心チロシンリン酸化体の抗体(Top1-cc抗体)を用いて、Top1複合体が免疫グロブリン(Ig)遺伝子上にAID依存的に特異的に形成されることを証明したが、これはTop1依存的なDNA切断を遺伝子座特異的に検出する手法であり、多用な解析に応用可能な技術である。 Ig遺伝子上のnoncoding RNA転写産物あるいは転写そのもののIg遺伝子組換えに関する重要性を確認するためにイントロンやnoncoding RNAに特異的なエクソン部分に対してアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO) を作成しノックダウンを試みたところ、予想に反しクラススイッチ組換えとDNA切断活性頻度が上昇し、体細胞突然変異も生存細胞を総合すると上昇していた。DNA切断部位はより5'にシフトしていた。DNA構造の変化をバイサルファイトで評価したがASOの有無で差は認められず、大きな構造の変化は捉えられなかった。従来の仮説では転写によりR-loopが形成されることがDNA不安定化を促すと考えられているが、これらのASOはR-loopを抑制しており、それにも関わらずDNA不安定化が起きる分子メカニズムは不明だった。AIDのノックアウト細胞においてもRNAi依存性のDNA切断を来し、AIDがこのようなRNAi的なDNA切断経路を使用する可能性をさらに検討する必要があった。 Top1 mRNAにAID依存的に結合するmiRNAの同定を新たにTop1特異的なビオチン化アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた手法も併用し進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
Top1-cc抗体を用いたDNA切断の遺伝子座特異的な検出方法は今後、Ig遺伝子上のRNAi依存的なDNA切断機構の分子メカニズムを証明する手がかりとなる知見であり、この新たな方法を用いて解析を進めている。RNAi依存的なDNA切断は活性化B細胞に発現するIg遺伝子のnoncoding RNA転写に依存するものであり、今後細胞特異性をさらに検討する。ASOによるDNA構造変化の評価には新しい評価法が必要であり、ソラーレンを用いたクロスリンク法などを改変し、独自のものを作る必要があり、条件を検討している。 Top1 mRNAにAID依存的に結合するmiRNAの同定は、従来進めてきたAgo2抗体による免疫沈降を基礎としたものとASOを応用したものとの併用で解析の精度を上げる。
|