研究課題/領域番号 |
16K07256
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
藤本 充章 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (80359900)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HSF1 / PARP1 / DNA damage / 転写 |
研究実績の概要 |
熱ショック応答を制御する熱ショック因子(HSF1)は、非ストレス条件下でも絶えず転写の活性化や抑制に働いている。HSF1とポリADPリボシル化酵素のPARP1およびPARP13とが三者複合体を形成すること、その複合体形成でPARP13はPARP1を留めておくために必要であることを明らかにした。 今年度は、DNA損傷後にPARP1が自己ポリADPリボシル(PAR)化され、三者複合体からPARP1が解離することがわかった。非ストレス状態ではHDAC1がPARP1の自己PAR化を抑制しており、DNA損傷薬剤(ドキソルビシン)処理後にPARP1のアセチル化が亢進することで、自己PAR化の増加が確認された。これまでに、DNA損傷時にはDNA損傷領域にPARP1が集積してDNA修復因子群が動員されることで修復が進むことが知られている。そこで、HSF1-PARP13相互作用を阻害するHSF1変異体(HSF1-T20A)に置換した細胞にドキソルビシン処理を行いDNA修復効果を調べた。HSF1変異体に置換した細胞では、DNA修復因子(gammaH2AX、p53BP)の動員は減少し、コメットアッセイ解析からDNA損傷の増強を認めた。二本鎖DNA修復の2つの修復機構(相同組換え修復、非相同末端結合)をモニターできる細胞を用い、三者複合体が染色体上に存在することがPARP1の損傷部位への集積を促進し、相同組換え修復の効率を高めることが分かった。 がんは、DNA損傷の増加あるいはDAN修復機能の低下によって、DNA異常が蓄積し発症する。DNA修復因子のBRCA1の変異体は乳がん進展に関与し、PARP1活性に強く依存されていることが知られている。そこで、三者複合体がDNA修復に関与することから、BRCA1の変異体を持つ乳がん細胞での三者複合体の効果を調べた。三者複合体形成の阻害はBRCA1遺伝子に点変異を持つヒト乳がん細胞の増殖を低下させることを見出した。さらに、HSF1-T20A変異体に置換することでBRCA1遺伝子を欠損するマウス乳がん細胞の増殖、およびマウスで腫瘍形成を抑制することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSF1-PARP13-PARP1複合体形成が、DNA損傷後に起こるDNA損傷部位への修復因子の集積に必要あることを明らかにした。さらに、この三者複合体がBRCA1遺伝子を欠損するマウス乳がん細胞の増殖、および腫瘍形成に関与することを明らかにした。 この2点は、申請書の計画書に記載していた今年度の実験であり、おおむね順調に研究が遂行されている。
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今後の研究の推進方策 |
HSF1-PARP13複合体を阻害するHSF1変異体(HSF1-T20A)を細胞内の内在性HSF1と置換することで、がん細胞の増殖が抑制することが分かった。 今後は、HSF1-T20AノックインマウスをCRISPRシステムを用いて作成する。HSF1-T20Aノックインマウスの脳や他の組織でDNA損傷が野生型マウスに比べ、亢進しているかをgammaH2AX染色で明らかにする。さらに、電離放射線やDNA損傷誘導剤をマウスに投与して強制的にDNA損傷を起こさせて同様の検討を行う。このHSF1-T20AノックインマウスはHSP群の誘導が悪いことが予想される、神経変性疾患モデルマウス(ハンチントン病モデルマウスなど) と交配し、凝集体形成を免疫染色やウエスタンブロットで調べる。さらに、寿命の短縮があるかどうかについても検討する。
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