研究課題/領域番号 |
16K07264
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
野口 恵一 東京農工大学, 学術研究支援総合センター, 准教授 (00251588)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノ構造体 / ウィルス様粒子 / タンパク質シェル構造体 / 結晶構造 / X線回折 / 相互作用 / 認識配列 / 内包 |
研究実績の概要 |
申請者らが放線菌Rhodococcous erythropolis N771株から獲得したエンカプスリンについて、これまでに、エンカプスリン遺伝子のすぐ上流にコードされた38アミノ酸残基を外来タンパク質のC末端に付加しエンカプスリンと共発現させることにより、外来タンパク質のエンカプスリンへの内包に成功している。そこで、内包に関わるシグナルタグと推定したアミノ酸配列を部分的に欠損させた外来タンパク質の内包実験を行ったところ、平成28年度までにC末端側の15残基の中に内包に必須な領域が存在することを明らかにした。詳細について平成29年度も引き続き検討を進めたところ、C末端近傍のGSLXIGSLK配列が内包に重要であることを示唆する結果を得た。この配列はエンカプスリンを持つ菌種間で保存性の高い領域であることから、内包制御に必須のシグナルタグとして機能している可能性が高いことが予想される。 また、エンカプスリン内部のシグナルタグ認識部位を同定するため、エンカプスリンサブユニット(264アミノ酸残基)の予想構造をもとに70残基程度ずつに四分割したエンカプスリンを作製し、シグナル配列を付加した外来タンパク質との表面プラズモン共鳴法による相互作用解析を行った。その結果、四分割した部位の一つと外来タンパク質との相互作用が確認され、エンカプスリン内部のシグナルタグ認識部位の候補を絞り込むことができた。 平成29年度に収集した分解能3.6オングストロームのX線回折データを用いて、Thermotoga maritima由来エンカプスリンの構造をプローブとした分子置換法による構造解析を行ったところ、エンカプスリン60量体の初期構造が得られた。現在構造精密化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究結果をもとに引き続き実験を進めた結果、エンカプスリンへの内包のために外来タンパク質に付加すべき必須の配列としてGSLXIGSLK配列を同定することができた。エンカプスリンを持つ多くの菌種間において、エンカプスリン遺伝子の上流にこの配列が保存されていることから、認識部位として働いている配列である可能性は極めて高いと予想される。また、異なる菌種でも同様な認識機構により内包が制御されていることを示唆する結果であり、エンカプスリンに共通した内包制御の解明につながることが大いに期待できる。 他方、四分割したエンカプスリンを用いてエンカプスリン内部のシグナルタグ認識部位の探索を行った結果、エンカプスリンサブユニット(264アミノ酸残基)の142-217番目のアミノ酸残基中に認識部位が存在することが示唆される結果を得た。この候補部位はThermotoga maritima由来エンカプスリンの結晶構造解析結果をもとに提案された認識部位とは異なっているが、結晶解析で観察された電子密度はやや不明瞭なものであり分子間相互作用については明らかにされていないことから、今後更に検討を進めることで認識部位とその相互作用機構について明らかとなる可能性が高いと予想できる。 分解能3.3-3.6オングストローム程度のX線回折データは再現性良く得ていたが、結晶解析は難航していた。平成29年度に結晶化条件を再検討し新たに収集した分解能3.6オングストロームのデータを用いて解析を行ったところ初期構造を得ることができた。現在精密化を進めているが、平成30年度前半には解析を終了できると予想している。 以上より,研究全体として,概ね計画通りに進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
内包を制御するために外来タンパク質に付加すべきシグナルタグ配列は特定できたと考えられるので、今後はエンカプスリン内部の認識部位の同定と関与する相互作用について実験を進める。表面プラズモン共鳴法により相互作用が観察された部位(142-217番目のアミノ酸残基)について他種エンカプスリンとアミノ酸配列の比較を行ったところ、保存性の高い領域が二領域が存在した。そこで、それぞれの保存領域を含む2つの分割体を作製し相互作用解析により認識部位候補の絞り込みを行う。絞り込みを進めた段階で保存されているアミノ酸残基に関して種々の変異体を作製し、これら分割変異体との相互作用の有無を確認することで認識部位と相互作用の詳細を特定する予定である。また、従来提案されていた認識部位とは異なるため、四分割体の実験で相互作用が見られなかった部位について分割箇所を再検討し相互作用の有無を再確認する。 他方、結晶構造解析に関しては、平成29年度に収集した分解能3.6オングストロームのデータの構造解析を進めるとともに、結晶の分解能の改善についても検討を進める。これまでも結晶化条件の最適化を行ってきたが、大きな改善は見られなかった。そこで、様々な添加剤や抗凍結剤を用いた分解能の改善手法について検討を進める。また、特定したシグナルタグ配列であるGSLXIGSLKのペプチドを化学合成し、エンカプスリンとの複合体の結晶構造解析を行う。
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