エンカプスリンは、分子量30-40 kDaの単一のタンパク質が自己集合することにより形成される直径 25-55 nmの中空の球状ナノ構造体である。特定の酵素を内包することにより、効率的な反応場や細胞にとって毒性のある基質や生産物を隔離する場を提供する細胞内微小区画であると考えられており、構造体のサイズ、安定性、内包するタンパク質の種類を制御することが可能となれば、マイクロリアクターやマイクロセンサー等としての活用が期待できる。そこで本研究では、ナノ構造体への外来タンパク質の取り込み機構を明らかにし効率的な内包手法の基盤を確立することを目的として研究を行った。 申請者らが放線菌Rhodococcous erythropolis N771株から獲得したエンカプスリンについて、エンカプスリン遺伝子のすぐ上流にコードされた38残基のペプチドを外来タンパク質のC末端に付加しエンカプスリンと共発現させることにより外来タンパク質をエンカプスリンに内包可能であることは既に明らかにしていた。そこで、内包に関わると推定したペプチドを部分的に欠損させた外来タンパク質を用いて内包実験を行ったところ、C末端近傍のGSLXIGSLK配列が内包に重要であることを示唆する結果を得た。この配列はエンカプスリンを持つ菌種間で保存性の高い領域であることから、内包制御に必須のターゲットペプチドとして機能している可能性が高いことが予想された。また、エンカプスリン内部のターゲットペプチド認識部位について検討するため、エンカプスリンの結晶化を行い分解能3.3オングストロームでの構造解析に成功した。これまでに構造が明らかとなっている二種のエンカプスリンとの構造比較をもとに認識部位を推定し部位特異的変異体を用いた内包実験を行った。その結果、エンカプスリンのN末端ドメインの構造保存性の高い領域が認識に関わることが示唆された。
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