遺伝子の発現や制御は、細胞の分化や恒常性の維持など生命現象の根幹をなす重要なステップであり、その転写制御にRNAポリメラーゼや多くの転写調節因子が関わっている。その中で基本転写因子TFIIEは、TFIIF等と共同し、さらにTFIIHを誘導することで、RNAポリメラーゼIIを中心とした転写開始複合体の形成に必須の役割を果たしている。本研究では、TFIIEを軸とした基本転写因子群の相互作用ネットワークを、構造生物学的手法やITC等の物理化学的手法を用いて明らかにすることで、主にRNAポリメラーゼIIが関与する転写制御メカニズムを明瞭に説明することを目的としている。申請者らはこれまでに、ヒト基本転写因子群とその古細菌(Sulfolobus属)のオルソログについて数十を超える発現系の作成、およびタンパク質の精製を行った。次に、ヒトTFIIE複合体の結晶化を行い、放射光施設SPring8で良好な反射データ(約2オングストローム)を得て、ヒトTFIIE複合体の結晶構造を決定した。また、古細菌TFE(ヒトTFIIEのオルソログ)の結晶化を行い、約2オングストロームの分解能で構造決定に成功した。続いて、DNAゲルシフトアッセイを行い、ヒトTFIIE複合体と二本鎖DNAとの相互作用を解析した。その結果、ヒトTFIIEのアルファとベータの両サブユニットが複合体を形成することによって、DNAとの相互作用が強くなることを明らかにした。さらに、ヒトTFIIE複合体の変異体を作成し、DNAとの結合を調べた。その結果、DNAとの結合に重要ないくつかのアミノ酸を同定した。酵母において、それらのアミノ酸が保存されており、アミノ酸に変異を加えることでその成長に阻害が見られることを明らかにした。
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