チロシンキナーゼは細胞の増殖や運動などを制御する複雑なシグナル伝達系の鍵を握る酵素である。非受容体型チロシンキナーゼFerは、上皮成長因子受容体(EGFR)や血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)など増殖因子受容体からのシグナル伝達によって活性化され、細胞のがん化やがん悪性化に深く関わる。FerはF-BAR (Fer/CIP4 homology-Bin/Amphiphysin/Rvs)ドメイン、SH2 (Src homology 2)ドメイン、キナーゼドメインをもち、Ferと類似のFesとともに、非受容体型チロシンキナーゼ群の中ではユニークなマルチドメイン構造をもつ。本研究では、非受容体型チロシンキナーゼFerの活性化機構の構造基盤を解き明かすことを目的とした構造生物学研究に取り組んで来た。まずFer活性化の鍵を握るN末端のF-BARドメインによるFer多量体化機構の構造基盤を解き明かすため、FerのF-BARドメインのX線結晶解析に取り組んだ。当初得られた結晶が良質のものではなかったため、結晶を改善するために、さまざまな試みをした。発現コンストラクトの改変や、タンパク質精製法の検討、数多くの結晶化条件のスクリーニング、結晶凍結方法の工夫、などにより、結晶の回折能をある程度改善することはできたが、構造決定には至らなかった。一方、Fer/Fesの活性化にはSH2ドメインへのリガンド結合も重要であることが示唆されているため、本研究ではFerのSH2ドメインとリガンドの共結晶構造解析にも取り組んだ。これについては高分解能での構造解析に成功した。
|