研究課題
プリオンタンパク質の正常型から異常型への構造遷移がプリオン病の原因と考えられている。申請者等は正常型プリオンタンパク質に強く結合し、プリオンタンパク質の構造遷移を抑制できる(すなわち抗プリオン活性を有する)RNA分子、R12を得てその立体構造とプリオンタンパク質との相互作用様式を明らかにしてきた。申請者等はR12の構造情報およびプリオンタンパク質との相互作用情報を基に、より高い抗プリオン活性を有するRNA分子、R24を設計した。R24は高い抗プリオン活性を持つが、NMRスペクトルから立体構造に多型性があることがわかり、R24の立体構造の決定および抗プリオン活性を発揮するメカニズムの研究が困難であることがわかった。そこで平成28年度は構造解析に適したR24類似体の配列を探索した。R24の抗プリオン活性に与える影響が少ないと予想される部位に残基を付加し、高い抗プリオン活性を維持しつつも、良好なNMRスペクトルを示すR24類似体の配列を見出した。平成29年度は、28年度の研究によって得られたR24類似体についての立体構造の解析を行った。一次元および二次元NMRスペクトルの測定・解析を行い、一部のプロトンを除き共鳴線の帰属が完了した。NOESYスペクトルにおけるNOEの帰属もほぼ完了し、NOEに基づく原子間距離の情報を抽出した。またプロトン-プロトン間のカップリング定数に基づく糖のパッカリング情報も可能な限り取得した。これらのNMR情報から立体構造の計算を行い、R24類似体のプレリミナリーな立体構造を決定した。R24類似体は高い抗プリオン活性を持つ、核酸分子である。本研究が達成されることで、抗プリオン薬剤の創薬のための基盤の確立と、また近年注目さている核酸医薬の発展へと寄与することが期待される。
3: やや遅れている
研究計画書における平成29年度の計画では、R24類似体と正常型プリオンタンパク質との相互作用の解析にも踏み込む予定であったが、それについては達成できていない。研究計画書の時点ではR24類似体と正常型プリオンタンパク質の複合体についての解析で論文化する予定であったが、R24類似体単独の立体構造の決定のみでも論文にする価値があると判断したため、現在それについて注力している。既にR24類似体のプレリミナリーな立体構造を求めること成功している。またR24類似体の抗プリオン活性について、ヒトのプリオン病を感染させたマウスの生細胞を用いて評価した。原型となるR24より活性が幾分弱くなったものの、R12より遥かに高い抗プリオン活性が維持されていることを見出した。
平成29年度に引き続き、R24類似体の立体構造の決定を行う。既にR24類似体のプレリミナリーな立体構造について決定しており、今後は構造の精密化を行う。ここで得られたR24類似体の立体構造と、その抗プリオン活性の評価と併せて論文化する予定である。続いてR24類似体と正常型プリオンタンパク質との相互作用について、ゲルシフト法等の生化学的実験と、CD 及びNMR を用いた分光学的実験によって調べて、分子レベルおよび残基レベルの相互作用の情報を得ることを目指す。R24類似体の立体構造は決定できる見込みであり、まずは想定される複合体のモデルを構築する。複合体のNMRスペクトルが解析可能なレベルで良好なものであれば、R24類似体と正常型プリオン蛋白質の複合体の立体構造の解析を行う。
理由:R24類似体の単独での立体構造の解析に注力しているため、正常型プリオンタンパク質の調製に必要な試薬一般、および正常型プリオンタンパク質に安定同位体標識を施すための13C標識グルコース及び15N標識塩化アンモニウムを大量に購入しなかったため、物品比が低く抑えられた。使用計画:R24類似体の単独での構造解析が終了後、正常型プリオンタンパク質との相互作用研究を行う。この研究を行うにあたり、13C及び15N安定同位体標識を施した正常型プリオンタンパク質を得るのに必要な試薬一般、13C標識グルコース及び15N標識塩化アンモニウムを購入するのに使用する。またRNA分子の構造解析に必要となる、13C, 15N安定同位体標識された核酸合成用アミダイトの購入を計画している。
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