研究課題
ポリアミン(代表的なものとしてプトレスシン[PUT]、スペルミジン[SPD]、スペルミン[SPM])は、アミノ基を複数もつ直鎖脂肪族炭化水素の総称であり、ウィルスからヒトに至るまで広く生体内に存在する。生体内でポリアミンはRNA/DNAの安定化、膜の安定化、細胞増殖・細胞分裂の制御、タンパク質合成など、生理活性物質として生命活動維持に重要な役割を果たしている。しかし、ポリアミンは細胞内で高濃度に存在することや、種々の酸性物質(DNA、RNA、リン脂質、ATP等)と相互作用するために、ポリアミンの生理機能を特定するための分子生物学的な研究はあまりなされて来なかった。ポリアミン機能解明へ向けた第一目標として、細胞内のポリアミン濃度調節に関与しているポリアミンアセチル転移酵素SATと取り込み系分子複合体PotABCDの立体構造を明らかにすることにより、ポリアミン濃度調節機構を構造生物学的なアプローチによって解明していくことを目的としている。本年度は次の実験をおこなった。野生型PotAとSeMetPotAサンプルは、大腸菌にてN末端にHis-tagを付加した融合タンパク質として発現と精製をおこなった。それらのサンプルを用いて結晶化実験を実施したところ、それぞれ針状ではあるものの結晶を得ることに成功した。また、SATにおいてはSAT-SPD-CoA三者複合体の構造精密化に成功した。さらに、SATのオリゴマー構造が結晶中のみだけでなく、溶液中でも同じ状態を示していることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画は、結晶構造解析へ向けた①野生型PotAとセレノメチオニンで標識したPotA(SeMetPotA)サンプルを調整することと、②SATサンプルを調整することである。①については、当初の計画通り、野生型PotAとSeMetPotAサンプルは、大腸菌にてN末端にHis-tagを付加した融合タンパク質として発現し、Ni-アフィニティーとゲルろ過クロマトグラフィーによって最終精製標品を得ることができた。②については、SAT-SPD-CoA三者複合体の構造精密化に成功し、さらに電子顕微鏡測定と分析超遠心測定によって、SATのオリゴマー構造が結晶中だけでなく溶液中でも同じ状態を示していることを確認した。
平成29年度以降は、野生型PotAとSeMetPotAのそれぞれの結晶化と構造解析を行う。具体的には、PotA-SPD複合体結晶と位相問題を解決するためのSeMetPotA結晶を取得し立体構造を明らかにする。次に、SATのモノマー状態とオリゴマー状態の離合集散の原因がリガンドに起因するのかを確かめるため、リガンド濃度変化によるSAT-SPD二者複合体およびアポ型SATの構造解析を進める予定である。
申請者が平成29年度から他大学へ異動予定のため年度後半から移設準備によって実験ができない状況が生じたため。
SATのモノマー状態とオリゴマー状態の離合集散の原因がリガンドに起因するのかを確かめるため、更なる分析実験に使用する予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Int. J. Biochem. Cell Biol.
巻: 76 ページ: 87-97
10.1016/j.biocel.2016.05.003