タンパク質翻訳後修飾の一つであるチロシン残基の硫酸化は、細菌から植物、ヒトまで広く生物で行われ、様々な生命現象に関わっている。ヒトにおいて、1割以上の分泌蛋白質と膜蛋白質において、チロシン残基が硫酸化修飾されていると推定されており、様々な蛋白質間相互作用の制御への関わりが報告されている。一方、植物においても、成長を制御するペプチドホルモンにチロシン硫酸化が必須であることが知られており、様々な重要な役割を果たしている。この反応は、タンパク質チロシン硫酸転移酵素(Tyrosyl protein sulfotransferase:TPST)によって、硫酸基ドナーとして3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(3'-Phosphoadenosine-5'-phosphosulfate:PAPS)が使われ、触媒される。これまでに、ヒトTPSTの立体構造を基質複合体の立体構造が決定され、その基質認識機構と触媒反応メカニズムが報告されている。チロシン硫酸化は、ヒトでは生体防御やウイルス感染を含めて様々な生命現象に関わる。植物においても、様々な生命現象への関わりが予想されているが、特に植物の成長制御に関与していることが報告されている。本研究は、ヒトと1次構造のまったく異なる植物TPSTの立体構造を決定し、その基質認識機構と触媒反応メカニズムを明らかにすることを目指す。ヒトと植物のTPSTの比較により、蛋白質チロシン硫酸化について、広く生物に一般性を持った理解が期待できる。本年度は、組換えタンパク質としての発現と精製を進め、目的とした結果が得られている状況である。
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