研究課題
H30年度は、ペルオキシソーム膜透過輸送装置複合体の主な構成因子であるPex14pに対して近位依存性ビオチン標識(BioID)法を適用することで、3種の高分子量複合体を構成する因子の同定、さらにはこれら3種の複合体がダイナミックに複合体構造を変化させる過程で一過的に相互作用する新規因子の探索を行った。その結果、Pex14pと相互作用する既知のタンパク質因子とともにいくつかの新規因子の同定に成功、さらにはリボソームタンパク質複合体がPex14pを主な構成因子とする輸送装置複合体に近接していることを示唆する結果が得られた。また、Pex14pが細胞周期依存的にリン酸化される部位の特定に成功し、Pex14p複合体が担うペルオキシソーム膜透過輸送とその制御の分子メカニズムに関する新たな知見を得ることができた。一方、米国コロンビア大学と共同で遺伝性の聴覚障害として報告された患者の病因遺伝子変異が、Pex14pと相互作用するペルオキシンのひとつであるPex26pの51番PheからLeuへの点変異置換であることを全エクソームシーケンス解析により見出した。この患者由来の線維芽細胞を用いた形態学的な観察からはマトリックスタンパク質の輸送障害は見かけ上認められないが、この変異に起因したPex26pとPex14pとの結合能の低下、新たに翻訳されたマトリックスタンパク質の輸送効率が著しく低下することを定量的に示した。この症例ではこれまでに報告されている重篤なペルオキシソーム欠損症とは全く異なる病態を示し、PEX遺伝子の変異によって聴覚低下・損失のみを呈する。こうして得られた、Pex26pのPex14pに対する結合能の低下が聴覚損失の病因になるという知見は、ペルオキシソーム代謝障害が神経系の発達および維持に異常をきたす病態発症のメカニズム解明に大きく寄与するものと期待される。
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