研究課題/領域番号 |
16K07277
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
奥田 昌彦 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任准教授 (60448686)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タンパク複合体 / NMR / 基本転写因子 / RNAポリメラーゼII |
研究実績の概要 |
基本転写因子TFIIHは10個の異なるタンパク(サブユニット)からなる高分子量複合体である。転写の他にDNA修復や細胞周期にも働く多機能タンパクである。TFIIHのサブユニットp62はアミノ末端にプレクストリン相同(PH)ドメインをもち、タンパク-タンパク間相互作用を通じてTFIIH複合体を必要な場所へリクルートする。我々はこれまでにPHドメインとその結合パートナーである基本転写因子TFIIEα、腫瘍抑制因子p53、DNA修復因子XPCとの複合体を核磁気共鳴(NMR)法で解析しそれらの立体構造を決定してきた。3つの複合体構造から結合パートナータンパクは共通した構造原理に基づいてPHドメインを認識、結合しているという重要な知見が得られた。そこで、この構造原理を利用し新たな結合パートナーを探索したところ、RNAポリメラーゼIIのサブユニット(ここではPol II-subと表記)を見出した。実際にPol II-subはPHドメインと特異的に結合することを実験で確認した。 本研究では、両者の複合体の立体構造をNMR法で決定し認識機構を明らかにすることを目的とした。本年度は、各種NMR測定、スペクトルの解析、および構造計算を実施し、最終構造を決定した。最初に、複合体中におけるp62 PHドメイン、Pol II-subそれぞれの主鎖、側鎖シグナルを帰属するためのNMR測定を行いスペクトルを解析しほぼ全て帰属した。次に、分子内NOEシグナルを測定、帰属し水素原子間距離制限情報を収集後、他の実験で得た二面角制限情報と水素結合情報と合わせて入力情報とし構造計算を行い各タンパクの構造を解いた。続いて、分子間NOEシグナル観測用のNMR 測定を行い解析し分子間の水素原子間距離制限情報を収集した。以上得られた全ての制限情報から複合体構造を計算し初期構造を算出した。精密化後、最終構造を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ研究計画通りに進行している。今までの複合体構造解析では、p62 PHドメインの結合パートナータンパクの試料として、結合部位のみを含む短いペプチド断片を主に用いてきた。この理由は、分子量が大きくなることにより生じるNMRシグナルの強度低下、幅広化やシグナル数の増加により解析が煩雑になってしまうのを極力さけるためである。今研究では、Pol II-subの完全長試料を使用した。予想通り、複合体として高分子量化したことでNMRスペクトルの質が大きく低下し、とりわけPol II-subのシグナル解析は困難となった。この問題に対処するために、Pol II-sub単独を解析し全てのシグナルを帰属し、さらに立体構造も解いた。これは研究計画には含まれていないが、単独構造の情報は複合体中のPol II-subのシグナルの帰属に際して大きな助けとなり、結果として計画通りに今年度中に複合体の構造を決定することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
変異体解析を行い、決定した構造の妥当性を評価する。複合体構造から p62 PHドメインとの相互作用に重要な Pol II-sub の残基を同定し、Pol II-sub の変異体を調製する。 NMR や ITC を用いて、変異による解離定数、エンタルピー、エントロピー等の結合パラメータの変化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 構造解析や構造計算等に使用する予定のPC等の購入を見合わせた 。
(使用計画) 今年度購入予定のPC等を次年度に購入し、効率的な研究推進に役立てる。
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