研究課題/領域番号 |
16K07282
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
村田 和義 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 准教授 (20311201)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / 低温電子顕微鏡 / 構造 |
研究実績の概要 |
本研究では腸内連鎖球菌Enterococcus hirae(Eh)由来のATP駆動型ナトリウムポンプであるV-ATPase(Eh V-ATPase)全複合体の構造を電子顕微鏡単粒子解析により明らかにし、その選択性イオン輸送の分子機構を解明する。 1)位相差クライオ電子顕微鏡法による単粒子構造解析: 申請者はこれまでに電顕用ゼルニケ位相板を用いることにより、界面活性剤で可溶化したEh V-ATPaseの氷包埋試料の可視化に成功している。本研究では、この手法を用いて10万粒子を超えるクライオ電顕画像を撮影し、単粒子解析を行った結果、分解能1.7nmの構造マップを得ることができた。また、大阪大学と共同でボルタ位相板を使用した300kVクライオ電顕による自動画像収集も開始し、すでに50万粒子を超える画像を収集して、分解能1nmを超える構造マップを得ている。 2)構造の固定化: V-ATPaseはV1領域におけるATPの結合と加水分解の状態により主に3つの構造状態を取ることが知られている。クライオ電顕単粒子解析では、これに伴う構造変化がマップの高分解能化の障害になると考えられる。そこで、V-ATPaseの回転子であるdサブユニットにPAタグを挿入した遺伝子改変粒子を作製し、これに抗体を反応させることで構造を固定したEh V-ATPase複合体を作製した。そして、同様にこのクライオ電顕単粒子解析を行った。その結果、野生型と同程度の分解能の構造マップを得ることができ、抗体の結合している様子も確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Eh V-ATPaseのゼルニケ位相差クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析では、1.7 nm分解能で立体構造を得ることができた。優位に得られたマップは3つの構造状態のうちの一つを表していることがわかった。さらに,膜内のVo領域では、aサブユニットの構造をホモロジーモデリングにより作製して、膜を貫通するcリングとともにマップにフィットすることによって、Na+選択性イオンポンプにおけるイオンの透過経路を推定することができた。一方、抗体で構造を固定した複合体は、先のものとは異なる第2の構造状態を示すことがわかった。ボルタ位相差クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析では、1nmを超える構造が得られており、さらに詳細な構造の解釈が可能となりつつある。 平成29年度は、その計画に従って試料作製法の改良、データ収集法の検討を試みたが大きな進展がみられなかったため、最終年度は従来の方法で進めることにした。
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今後の研究の推進方策 |
現在得られているゼルニケ位相板による構造の知見を論文にまとめるとともに、ボルタ位相板によって自動データ収集が行われた300kVクライオ電顕による高分解能データの解析を進める。 1)ゼルニケ位相板によるEh V-ATPaseの1.7nm分解能の構造を、今回得られた二つの構造状態について、現在知られている好熱菌や酵母のV-ATPaseの構造とそれぞれ比較することによって、主にNa+イオンポンプとして働くEh V-ATPaseの分子の特徴を解明する。また、イオンポンプの働きをするVo領域について、aサブユニットのホモロジーモデルを作製してこれにフィットし、Na+選択性イオンポンプの機構を明らかにする。 2)ボルタ位相板を使った自動画像収集による300kVクライオ電顕の利用を大阪大学と共同で行い、さらなる高分解能単粒子構造解析を進める。現在、PAタグの有無による2つの構造状態の構造をそれぞれ50万粒子程度解析し、サブナノメートル分解能のマップを得ている。さらに画像データを加えるとともにマップの精密化を進めて、分解能の向上を測る。そして、得られたマップに各サブユニットの分子モデルを正確にフィッティングすることで、Na+選択性ポンプの分子メカニズムを明らかにする。
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