本研究では腸内連鎖球菌Enterococcus hirae(Eh)由来のATP駆動型ナトリウムポンプであるV-ATPase(Eh V-ATPase)全複合体の構造を電子顕微鏡単粒子解析により明らかにし、その選択性イオン輸送の分子機構を解明する。 申請者はこれまでに、電顕用ゼルニケ位相板を用いることにより、界面活性剤で可溶化したEh V-ATPaseの氷包埋試料の可視化に成功し、その10万粒子を超えるクライオ電顕画像の単粒子構造解析から、分解能1.7 nmの構造マップを得ることができた。さらに、回転子に抗体(Fab)を結合させた粒子の解析から、異なるATP加水分解状態の複合体構造を明らかにした。結果、Eh V-ATPaseでは回転子が膜内の回転リングの中心からズレた位置でこれに結合していることがわかった。また、Eh V-ATPaseのメジャーな構造状態は、好熱菌のV/A-ATPaseではマイナーな構造状態に相当することが明らかになった。 さらに分子レベルでの構造解析を進めるため、大阪大学蛋白質研究所のボルタ位相板を備えたクライオ電顕を用いてデータを収集し、サブナノメートル分解能の構造マップを得ることができた。そこでは、エネルギーを発生するV1ドメインの3つのATPaseの異なる構造が確認でき、また、ポンプ機能を持つ膜内のVoドメインでは、回転するリング(c-ring)とイオンを輸送するa-subunitの構造の相互作用の様子が明らかとなった。現在、これをもとにフレクシブルフィッティングによる構造モデル構築を行っており、ナトリウム輸送性V-ATPaseの分子構造基盤を明らかにしていく。
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