研究課題/領域番号 |
16K07284
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
桑原 直之 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (70506253)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 筋ジストロフィー / 糖鎖修飾 / X線結晶構造解析 / O-マンノシル化 |
研究実績の概要 |
ジストロフィン糖タンパク質複合体は筋肉や脳神経組織など多くの組織で重要な糖タンパク質複合体であり、細胞内骨格と細胞外マトリックスを物理的に繋げる働きをしている。αジストログリカンはその複合体のサブユニットであり、細胞表面に局在している。αジストログリカンに付加されたO-マンノース型糖鎖が細胞外マトリックスタンパクであるラミニンと直接相互作用し、そのO-マンノース型糖鎖の形成不全が先天性筋ジストロフィーを引き起こす。当該年度での研究では、このO-マンノース型糖鎖の形成に関わるFukutin-related protein (FKRP)の構造機能解析を進めた。FKRPはFuktinと合わせて core M3と呼ばれる糖鎖にリン酸リビトールをタンデムに負荷する糖転移酵素であり、哺乳類において、リビトールを利用する唯一の酵素である。哺乳類細胞発現系を用いてFKRPを大量精製及び結晶化を行い、FKRPの高分解能立体構造を決めるとともに、基質との複合体構造も合わせて決定した。FKRPは一般的な糖転移酵素とは異なり、リン酸ヌクレオシド転移酵素と似た構造を取っていた。そのため、一般的な糖転移酵素とは異なる進化の過程を経て生まれていることが分かった。基質との複合体構造解析及び変異体を用いた機能解析の結果、FKRPはリン酸ヌクレオシド転移酵素とも異なる基質認識機構を獲得することで、core M3糖鎖を特異的に認識し、リン酸リビトールを転移することを明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
連携研究者らのグループがFKRP, FKTN及びTMEM5の基質同定及びそれら糖転移酵素が作成するポストリン酸化修飾構造を明らかにした(M. Kanagawa et al., Cell Reports (2016), H. Manya et al., JBC (2016))。これにより、今年度に計画していたFKTN、FKRP、TMEM5の基質同定がほぼ完了したことになる。さらに今年度にFKRPの立体構造を明らかにすることで、新規の基質認識及び糖転移機構の、高分解能立体構造に基づく機構解明を行うことができている。また、FKTN、FKRP、TMEM5それぞれの遺伝子をノックアウトした細胞をすでに構築済みであり、変異体の細胞内機能解析のための準備もできている。
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今後の研究の推進方策 |
(FKTNの大量精製及び結晶化) FKTNはFKRPの基質であるリン酸化リビトールが付加されたcore M3糖鎖を生成する。立体構造に基づく機能解析のためには、FKTNの大量精製系の確立が重要である。しかしFKTNは哺乳類細胞発現系を用いても不安定であり、大量発現及び精製が困難である。他の蛋白質もしくは化合物などの安定化させる因子が必要であると推測され、これまでに報告のあるPOMGnT1などの候補相互作用因子(蛋白質もしくは化合物)の添加により、安定性の向上を試みる。安定性が向上し、精製系が確立できたのちに、結晶化を進め、リン酸化リビトールやcore M3糖鎖認識機構の解析を行う。 (TMEM5の大量精製及び結晶化)TMEM5はリン酸化リビトールを糖受容体、キシリトールを糖供与体とする新規糖転移酵素である。現在、複数の種からTMEM5遺伝子を取得し、それぞれについて発現領域を変えた哺乳類細胞用発現ベクターを構築する。一過性発現によりそれぞれの発現コンストラクトについて安定性を評価し、結晶化のための発現コンストラクトを選定する。選定したコンストラクトを用いて安定性発現系株を取得し大量精製を行い、結晶化スクリーニングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
FKTN, FKRP, TMEM5の基質同定が当初予定よりも早く遂行できたため、購入予定の試薬などが不要になった。そのため、未使用額を次年度に持ち越した。今年度に細胞培養用培地などの試薬や、実験データ保存のためのHDD等の購入で使用する。
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