研究実績の概要 |
CRISPR-Cas系は多くの細菌が持つ獲得免疫系で、ウイルス由来のDNAやRNAなど、細胞外から侵入してくる核酸を分解する。本系は真核細胞における獲得免疫系の原型とも考えられるので、その機構を解明することは獲得免疫系の進化を考察する際に重要である。本研究課題は、比較的多くのCRISPR-Cas系を有する高度好熱菌Thermus thermophilus株をモデル生物として用い、本系を構成している超分子複合体、および、それらに関連している機能未知タンパク質群の高分解能な立体構造を解析し、一つの細胞における獲得免疫系を体系的に理解することを最終目的としている。これまで、6種類(11サブユニット;Cmr1, -2, -3, -4, -5,- 6サブユニットをそれぞれ1,1,1,4,3,1分子)のタンパク質と1分子の低分子一本鎖RNA(crRNA)とから構成されているCmr複合体(TtCmr)の構造と機能の研究を行ってきた。TtCmrはcrRNAに対して相補的な配列を持つ一本鎖RNAをcrRNAの5'側から順に6塩基ごとに5か所で切断する。TtCmrの構造形成とRNA切断活性におけるCmr1およびCmr5サブユニットの役割を解明するために、Cmr1あるいはCmr5を欠失させた変異型複合体(ΔCmr1、ΔCmr5)を大腸菌無細胞タンパク質合成法を利用して試験管内で構築し、それらのRNA切断活性、および、電子顕微鏡構造を解析した。その結果、変異複合体はいずれもRNA切断活性が変化していた。ΔCmr1の構造はTtCmrに似ていたが、RNA切断を司るCmr4の数が多い分子が混在しているように見えた。ΔCmr5の構造は一様でないために構造を決定することができなかった。これらの結果から、Cmr1およびCmr5はTtCmrの構造形成とRNA分解活性を制御していることが強く示唆された。
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