細胞膜は脂質二重層から成るが、その内外層で脂質組成や機能が大きく異なっている。本研究では、その様な脂質非対称の状態を脂質非対称センサータンパク質Rim21が感知する仕組みの解明と、医学や農学への応用に向けた知的基盤を形成するのが目的である。 平成31年度(令和元年度)は、脂質非対称センサータンパク質Rim21の翻訳後修飾に関する論文を投稿し、受理された。Rim21の非典型的なモチーフにおけるN型糖鎖修飾がRim21の細胞膜上での微小環境への局在を調節することを示し、N型糖鎖修飾の新たな役割を提唱した。 また、脂質非対称バイオセンサー開発についても進展があった。Rim21の細胞質領域に存在するセンサーモチーフの近傍に変異を導入することで、脂質非対称の変化に対する応答をプロトタイプに比べて高いS/N比で検出する改良版を作製できた。また、それらを用いて様々な外界ストレスに曝した酵母細胞を観察したところ、幾つかの細胞外ストレスによって脂質非対称の状態が変化している可能性が示された。外界のストレスの少なくとも幾つかが細胞膜脂質の状態変化を通して感知されるという新規概念の構築の土台となる発見である。 Rim21に端を発するシグナル伝達経路では、最終的に転写因子Rim101が切断されて活性化する。Rim101の切断活性化は病原性真菌類の宿主内での増殖と病原性に必須であるため、その活性化の調節機構の解明は医学的にも重要である。今年度は、活性化型のRim101が過剰に蓄積すると重金属に対して高感受性になることを見出した。また、過剰なRim101の活性化を防ぐために、細胞はRim101の切断活性化の抑制と活性化型Rim101の迅速な分解、という二つの仕組みを備えていることを見出した。様々な種類のストレスに柔軟に対応するために、ストレス応答経路を効率良く終結させる仕組みの発見と言える。
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