膜内でタンパク質を限定分解する膜内切断プロテアーゼは膜貫通領域に活性中心を持つため、精製と活性の評価が難しく、酵素機能・機構が明らかではない。本研究では、認知症の原因となるアミロイドβ(Aβ)ペプチドを産生するγセクレターゼ複合体について、活性調節や基質認識に必要な領域を同定し、膜内切断プロテアーゼの基質導入機構を解明することを目的とした。研究代表者は、膜内切断プロテアーゼのうち、ヒトγセクレターゼ複合体を酵母において再構成することに成功し、試験管内でγセクレターゼ活性を測定できる系を世界で初めて開発している。この系を用いてヒトγセクレターゼの詳細な酵素学的性状・複合体内のサブユニット構成が活性に及ぼす影響、リン脂質による活性の変化など、酵素としての基本的な性質を明らかにした。酵母内に再構成したγセクレターゼの切断活性は、酵母の生育を指標に評価することも可能であるため、スクリーニング系としても有用である。平成30年度には、γセクレターゼの調節サブユニットAph1に発見したプロテアーゼ活性を上昇させる活性化変異について解析を進めた。研究期間全体を通じて、γセクレターゼの触媒サブユニットプレセニリン(PS1)とAph1からプロテアーゼ活性を上昇させる活性化変異を同定し、酵母膜画分を用いた酵素学的解析と哺乳類細胞を使った解析を行った。PS1とAph1の活性化変異によりAβのトリミングが進み、認知症発症に関わる長鎖Aβが減少することが明らかとなった。また、プロテアーゼ限定分解法を用いて、PS1とAph1の親水性ループ領域のコンホメーションが変化することを明らかにした。この成果は現在投稿中である。γセクレターゼ複合体をターゲットとした認知症の治療戦略において重要な知見であり、毒性の高い長鎖Aβ42の生成を減少させるγセクレターゼのモジュレーターの開発に道を開くものである。
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