研究課題/領域番号 |
16K07292
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
桜井 博 金沢大学, 保健学系, 教授 (00225848)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱ショック応答 / 基本転写因子 / 転写開始と伸長 / 細胞増殖 / タンパク分解 |
研究実績の概要 |
熱ショック転写因子HSF1 (heat shock factor 1) は、タンパク変性ストレス応答において、シャペロンの発現を誘導する転写調節因子として知られているが、恒常性の維持においても、シャペロン以外のさまざまな遺伝子群の発現を調節し、細胞増殖・老化・がん化などを制御する。平成28年度は、非シャペロン型HSF1標的遺伝子である基本転写因子TAF7 (TBP-associated factor 7) に注目し、その熱ショック応答における機能について解析した。 基本転写因子TFIID (Transcription factor IID) の構成タンパクであるTAF7は、TAF1やCTD kinase (RNAPII C-terminal domainをリン酸化する) と相互作用し転写開始を制御する。熱ショック細胞ではTAF7タンパク量が約2倍に増加すること、TAF7遺伝子のプロモーター内にはHSF1結合配列が存在し、この配列には熱ショック誘導的にHSF1が結合することより、TAF7がHSF1の標的遺伝子であることを明らかにした。TAF7はユビキチン‐プロテアソーム系で分解される不安定なタンパク質であった。TFIID複合体とTAF7の相互作用はTAF7のリン酸化により制御されており、また、細胞内の約2/3のTAF7はTFIID複合体には結合せず遊離していた。さらに、TAF7ノックダウン細胞を用いた実験より、TAF7は熱ショック細胞の増殖に必要であることが示された。ノックダウン細胞では、シャペロン遺伝子のmRNA 量が減少していた。クロマチン免疫沈降実験の結果より、遊離型のTAF7はシャペロン遺伝子のプロモーターに結合し、RNAPIIが転写開始から伸長反応へ移行する過程を制御していることが示された。 これらの研究結果は、論文として発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSF1は、シャペロンの発現を誘導する転写調節因子として知られているが、恒常性の維持においても、シャペロン以外のさまざまな遺伝子群の発現を調節し、細胞増殖・老化・がん化などを制御する。本研究では、非シャペロン型HSF1標的遺伝子である基本転写因子TAF7、初期応答遺伝子IER5 (immediate-early response)、クロマチン制御因子EXPAND1の発現調節に注目し、これらにより細胞のストレス応答・増殖およびゲノム全体の転写・クロマチン構造がどのように制御されているかについて明らかにする。 平成28年度は、熱ショック細胞におけるTAF7の機能について解析を行い、熱ショックにより誘導されるTAF7は、シャペロン遺伝子の転写調節に重要な役割を担うことを明らかにした(論文作成中)。また、IER5の機能解析も行った。IER5はPP2A (protein phosphatase 2A) に結合し、その基質特異性を制御すると考えられる。PP2A-IER5の新たな標的タンパク質として、細胞周期を制御するCDC25Bを同定した。IER5の発現によりCDC25Bが脱リン酸化されること、さらに、細胞内のCDC25B量は減少した。このことは、熱ショックにより誘導されたIER5はCDC25Bを介して、細胞増殖の抑制に関与していることを示唆している。この研究結果については、さらなる検討が必要である。 このように、本研究テーマは、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
IER5はHSF1の標的遺伝子であるが、そのN末端は、IER2やIER5Lと高い相同性がある。これらIERファミリーによるHSF1の転写活性化能力の制御について明らかにするため、(1)IERファミリーとPP2Aとの結合、(2)IERファミリーとHSF1との結合、(3)IERファミリーによるHSF1のリン酸化制御について解析する。また、IER5-PP2Aの新たな標的タンパク質であるCDC25Bについて、(1)他のIERファミリーの関与、(2)脱リン酸化されるリン酸化アミノ酸残基の決定、(3)脱リン酸化とタンパク質の機能制御(活性、安定性、細胞内局在性の変化)、(4)脱リン酸化と細胞増殖制御との関係について明らかにする。具体的には、共免疫沈降やpull-down実験、フォスファターゼ活性の測定、抗リン酸化タンパク抗体を用いたWestern blot、免疫染色、細胞カウントやMTT法により検討する。 一方、HSF1の新たな標的遺伝子候補であるクロマチン制御因子EXPAND1については、EXPAND1プロモーターのレポーター遺伝子を作製し、HSF1が結合し熱ショック応答を担うDNA塩基配列を同定する。これをもとに、ゲルシフト法やクロマチン免疫沈降法により、HSF1の結合を確認する。 このような研究により、HSF1の多様な機能について解析することにより、恒常性維持機構におけるHSF1の重要性について考察する。
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