熱ショック転写因子HSF1 (heat shock factor 1) は、タンパク変性ストレス応答において、シャペロンの発現を誘導する転写調節因子として知られているが、恒常性の維持においても、シャペロン以外のさまざまな遺伝子群の発現を調節し、細胞増殖・老化・がん化などを制御する。平成30年度は、非シャペロン型HSF1標的遺伝子である初期応答遺伝子IER5 (immediate-early response 5) に注目し、その細胞内における機能について解析した。 IER5のN末端領域はprotein phosphatase 2A (PP2A) に結合し、PP2A標的タンパクの脱リン酸化を調節する。PP2A-IER5の標的タンパク質として、細胞周期を制御するcell division cycle CDC25AおよびCDC25Bを同定した。IER5はPP2AによるCDC25Bの脱リン酸化を促進するが、これによりCDC25Bからリン酸化アミノ酸結合タンパクの14-3-3が解離し、CDC25Bはユビキチン化され分解される。同様の機構によりPP2A-IER5はCDC25Aの安定性も調節する。これらの結果より、IER5はCDC25A/Bを介して細胞増殖の制御に関与していることを明らかにした。また、IER5のN末端領域はIER2やIER5Lと高い相同性を示し、これらのIERタンパクもCDC25A/Bを含めたPP2A標的タンパクの脱リン酸化を調節する。しかし、IER5の発現は熱ショックにより強く誘導されるが、IER2とIER5Lは熱ショックとは異なる細胞ストレスにより発現が調節される。したがって、IERファミリーは、さまざまな細胞増殖条件下でPP2Aによる標的タンパクの脱リン酸化を制御すると考えられる。これらの研究成果は、Cellular Signalling誌に原著論文として発表した。
|